タンザニア・キリマンジャロにおける調査研究を通して、制度派農業経営学の分析枠組み(「混成性の経営目標形成モデル」に基づく経営目標の仕分け→「農家経済経営の概念図」に基づくモノ・カネ・ヒトの流れの把握→両者をからみ合わせた、それぞれの経営目標に基づくものとしての「モノ・カネ・ヒトの流れ」の特徴の解釈)を構築した。 その分析枠組みを京都府綾部市の主食米・酒米生産農家に適用すると、私的利益追求の経営目標の下に、「山田錦・五百万石・日本晴などの酒造会社直接販売連鎖」[総価値(売上)の55%]、さらに高収益の「コシヒカリの消費者・小売店などへの直接販売連鎖」(総価値の35%)の経営行動(およびその成果)がありながら、収益が劣る「コシヒカリ・祝・京の輝きの農協出荷連鎖」(総価値の10%)についても、産地全体の発展への貢献という経営目標の下で維持していることがわかる。私的利益追求の「酒造会社直接販売連鎖」については、支え合い関係の下にある1酒造会社にのみ直接販売している。高めの価格での全量買取という買い支えの下で、離農者の農地を積極的に受け入れ(必ず購入してもらえる酒米を増産し)、農地・景観を守るという経営目標も実現している。 同様に山形県遊佐町の主食米・飼料米生産農家に適用すると、生活クラブ生協による買い支えがゆえに、「私的利益追求」と「産地全体の発展への貢献」の経営目標が重なっている「共同開発(遊々)米の生活クラブ生協への生産部会経由販売連鎖」を見い出せる。さらに和歌山県みなべ町の梅生産農家に適用すると、相互扶助を重視する当地の伝統的価値観に引っ張られ、すべてを「私的利益追求」の下の「梅干加工直接販売連鎖」にせず、産地全体の総価値に資する「青梅農協出荷連鎖」や、出荷会の仲間との連帯感や同地区の活性化を目的とする「完熟梅のメルシャンへの出荷会経由販売連鎖」も重視されているのがわかる。
|