研究課題/領域番号 |
15K07624
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研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
植木 美希 日本獣医生命科学大学, 公私立大学の部局等, 教授 (60202230)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アニマルウェルフェア / フランスビオ / アメリカケージ養鶏禁止 / OIE / 付加価値食品市場 / 経営戦略 / 有機畜産 / オーガニック |
研究実績の概要 |
近年、従来の生産効率を追求した畜産ではなく、家畜の健康と福祉(アニマルウェルフェア)に配慮した畜産が世界的に求められており、OIE(国際獣疫事務局)においても重要な課題として捉えられるようになってきており、畜種毎の基準も採択されつつある。そのため日本においてもアニマルウェルフェアに配慮した畜産を実際に実践し、日本の畜産物の国際社会における競争力を高めていくことが極めて重要な問題として検討しなければならない時期にさしかかってきた。そこで、まずアニマルウェルフェアの先進国の状況を調査研究することとした。 日本が近代畜産の模範としてきたアメリカにおいては、国としての法律はなく、州ごとに大きな差異が存在するが、先進的なカリフォルニア州では、2015年より従来型のケージ養鶏を禁止した。そこで実際にどのように導入されているか、生産と流通の現場において確認調査を実施した。その結果、全ての生産者において従来型ケージ養鶏禁止は遵守されており、エンリッチケージもしくは平飼い養鶏が主流となっていた。そのことで卵価が上昇し、生産者にとってはかつてない利益を得ることができ、経営としても成功していることが明白となった。 欧州の中でも美食と農業大国でもあるフランスは、アニマルウェルフェアを単独で推進する動きは乏しいが、家畜の飼養と有機飼料にこだわった有機畜産を政府を挙げて推進しており、生産現場では有機畜産(Bio:英語ではOrganicに相当する)に転換する生産者も多く、消費者にも大歓迎されている。食にこだわる日本の食品関係者は常にフランスの動向に注目しており、このようなフランス市場の変化を将来的な日本の付加価値食品市場に導入できると考えている関係者は多い。またフランスの有機食品を扱う事業者に取っても日本は魅力的な市場として捉えられている。そこで今後は、日本の先駆的事例の分析も必要となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
世界的に畜産分野において大きな改革が進められている。その一環として、アメリカカリフォルニアでは従来型のケージ養鶏が禁止されたことから、現場での実施状況がどのように進捗しているか確認するため2015年6月にはアメリカ・カリフォルニア州の調査を実施した。 欧州ではさらにそのような状況が進んでいるが、特に食に強いこだわりを持つフランスにおいては家畜の飼育方法も含めた有機畜産(ビオ)が、急速に拡大・普及してきていることから、特に酪農部門と食品市場の動向について9月にフランス調査を実施した。以上のように概ね計画通り調査は遂行することができた。 調査はいずれも海外の非常に先進的な動向であり、またその調査結果を分析し、日本フードシステム学会、日本有機農業学会、日本農業経済学会において発表を重ねてきた。 残念ながら日本では、アニマルウェルフェアも有機畜産もまだそれほど普及しているとは言い難い。 論文執筆に関しては、これまでの研究を生かして共生システム社会学会誌において総合的なアニマルウェルフェアの論文を公表した。さらにはフードシステム研究において日本のアニマルウェルフェア品質を持つ牛乳「放牧畜産認証」について論文を発表し、アメリカやフランスの事例に関しては「畜産の研究」「養豚の友」「養鶏の友」「養牛の友」「鶏の研究」等の専門誌において論文を公表してきた。 またこれまでの研究成果を生かして日本畜産学会の市民向け公開講演会「健康長寿に不可欠な畜産食品の機能と東京発ブランド畜産物」のコーディネートと司会を務めた。同じく日本畜産学会では、「飼料用米を用いた養鶏の現状と課題」と題してポスター発表も行った。このように27年度は調査研究が順調に進み、論文発表や公開講座にて研究成果を公表し、アニマルウェルフェアについての社会の関心を高めることに貢献できたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
27年度の調査をもとに、特に有機畜産が普及浸透してきている欧州の中でもフランスに焦点を当て継続調査を実施する。フランスは世界の酪農王国であるが、最近になって有機酪農への転換が増加し、有機酪農生産者自らが新しい牛乳・乳製品の開発に取り組み、マーケティングを行い、市場開拓に努力している。その努力が消費者にも認められ、都市部での有機牛乳・乳製品の人気が高くなってきている。これまで大手乳業メーカーはブランド名では有機を意味するBIOを採用しているが、実際の生産ではBIOに取り組んでこなかった。しかしながら、最近になって、有機専門部門を作るなどの動きも見えてきた。そこでこのような新しい動きについて調査を実施したい。またイギリスでは以前から有機牛乳生産者組合が存在するが、フランスでも先駆的な生産者たちが組合を結成しているため、可能であれば、その組合に関してもインタビュー調査を実施したい。 ところで欧州は長く共通農業政策のもと酪農を保護してきたが、2015年にクオータ制度を廃止した。しかしながら生乳価格の下落のため、廃止後わずか1年でクオータ制度を臨時措置として復活させている。このように農畜産業は適切な政府の支援なしには成立しない。そこで欧州の有機畜産、アニマルウェルフェア、酪農政策等を含めた農業政策と食品安全政策についても時系列で分析を行う。 また消費者の食品選択の志向や農業への意識も今後の農業生産のあり方を考える上で大きな鍵を握ると考えられる。そこで27年度以上に実際の食品市場、スーパーマーケットや食品専門店、マルシェ(ファーマーズマーケット)、レストランの動向を消費者の目線で確認することとする。さらには販売されている表示についても調査分析を行いたい。 このように欧州、特にフランスの動向を見ながら、日本国内の新しい動きについても確実に情報収集と調査を実施したいと考える。
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