研究課題/領域番号 |
15K07624
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研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
植木 美希 日本獣医生命科学大学, 応用生命科学部, 教授 (60202230)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アニマルウェルフェア / 有機農業・畜産 / マーケティング / CIWF / Cniel / ビオコープ / ケージ養鶏 / ビオレ |
研究実績の概要 |
世界の中でアニマルウェルフェアに関する法制度の整備はEUが先行している。家畜の保護活動を行うNGOに関してはイギリスの団体の歴史が長く、このような法制度の構築に甚大な影響力を持ってきた。また家畜の飼育方法だけではなく生産から消費までをトータルで捉えるフードシステムとしての広がりを持つ有機畜産の発展は近年フランスで目覚ましい。このような状況中でフランスでもイギリスの動物保護団体が母体となる農業動物への憐れみ基金(CIWF Franc)が活動を開始したため、代表者のヒアリング調査を実施した。加えてフランスで有機食品の普及に尽力してきたビオコープの関係者が設立したビオ・コンソマターについてもその代表者にヒアリング調査を実施した。フランスの畜産物の中でも牛乳・乳製品は重要な役割を果たしているため、フランス全国酪農経済センター(Cniel)に関しても継続調査を実施し、有機酪農乳業に関する貴重なデータを入手した。 フランスにおいては、ほぼ全てのスーパーマーケットでアニマルウェルフェア食品や有機食品を入手できる。多数のスーパーマーケットで店頭調査を実施した。従来型の自然食品店だけではなく、カルフールのような大手スーパーマーケットも有機食品専門店を開業し、店舗数を増加させていることも確認できた。 アニマルウェルフェアに関してはもともと採卵鶏の状況が最大の問題とされ、改善を目指してきた分野である。EUでは西・北欧が先行し、南欧は取り組みが遅れており日本と同様の条件下にあるのではないかとの認識が日本の関係者の中ではあったため、イタリアにおいて調査を実施したところEUの規則が規則通りに遂行され、EU全域で従来型ばタリーケージ養鶏が消滅していることが確認できた。さらにはEUで認められているエンリッチドケージ養鶏に関しては、量的にはEU全域で半分を占めるものの大半が加工用となっていることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アニマルウェルフェアに関してはEUが先行しているため、本テーマでは海外調査が研究を遂行する上で要となる。上記に記したようにフランスとイタリア調査を実施することができた。当初の想定よりイタリアについてはアニマルウェルフェアへの取り組みが進行しており、養鶏に関しては一般のスーパーマーケットではエンリッチドケージ卵はほとんど確認できなかった。EU規則で定められた通り2012年にエンリッチドケージに転換した養鶏生産者に関してはさらにエンリッチドから平飼いへの転換が求められており、経済的な負担となっている場合がある。今後、詳細な調査が必要である。 フランスは有機食品に対する消費者の需要がますます伸長しているため、有機農産物以外でも政府が新たな農業政策として2025年までに農薬・化学肥料の50%削減するとの政策を打ち出した。このことからも現在ではEUのリーダー的存在の国の1つとなった。加えて日本でも大手スーパーマーケットとの業務提携でフランスの有機食品専門スーパーマーケットチェーンが誕生している。日本国内での調査を実施し、フランスでの実態との比較検討も今後の日本での有機・アニマルウェルフェアチェーンの進展を見る上で不可欠である。 海外調査は日本から出かけるかなり前より周到な準備が必要であり、所属機関の事務手続きにも時間がかかる。そのため現地での臨機応変な対応がしづらく、再度調査を計画する必要が生じた。 一方、研究計画では想定していなかったオーストラリアでもスーパーマーケットの店頭調査や認証団体RSPCA AUSでのヒアリングを行うことができたのは大きな収穫であった。 全体を通して今年度の研究成果については、フランスの有機牛乳専門誌への寄稿、日本農業経済学会での発表、共生社会システム学会でのシンポジウム座長、講演会、専門紙への寄稿等で一定の寄与ができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
フランスやイタリアの実態調査の継続と合わせてBBFAW(アニマルフェルフェア経済指標)の動向についても研究対象とする。BBFAWにはイギリスアニマルウェルフェア団体が深く関与している。多国籍食品・外食産業の経営内容をBBFAWにより評価し、結果を公表することで投資家による企業の投資行動にアニマルウェルフェアを要件に加え社会的責任を果たすよう促す仕組みを構築しつつある。 アメリカでは西海岸の大学生が中心となって結成されたHumane Leaguesによる採卵鶏のバタリーケージの禁止を求める運動が活発化している。日本にも支部が存在する。そのためグローバルに経営を展開する多国籍食品企業や外食産業が続々と2025年を目標にケージ養鶏禁止の方向性を打ち出している。もちろんそれ以前からEUのバタリーケージ禁止の規則があり、EUでは卵殻への生産方法の直接表示が、消費行動を変化させてきた。 日本でも2020年の東京オリ・パラ大会に向けてアニマルウェルフェア食品の導入が決定しているため、これまでとは異なり関係者もアニマルウェルフェアへの取り組みを喫緊の課題とし始めた。 そこで今年度は新たに国内でアニマルウェルフェアへの取り組みを開始したフードチェーンの生産者と流通業の両者への調査も実施することにする。2017年末にはアニマルウェルフェア認証システムに取り組む協会も誕生している。その動きについても注目したい。そして今後の日本におけるアニマルウェルフェアチェーンの開発に必要な条件を整理する。 さらには日本だけではなくアジアの動きについても調査が必要である。認証制度では韓国や台湾ですでに導入されている。また韓国ではバタリーケージ禁止を打ち出している。このような動きを整理し、世界の潮流を見ることで今後の日本のアニマルウェルフェアチェーンの進展に寄与できるような最終年度の取りまとめを行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年3月にフランスの有機酪農継続調査に出かけた。当初は出かけるはずであったFNABの会長宅である有機酪農家に関しては、直前になって都合によりキャンセルとなり次年度の受け入れを示唆された。 6月にイタリア調査に出かけたが、調査先の好意により費用が軽減された。 またどちらも航空チケットを予約する際、適正料金をインターネット予約によって検索し、首尾よく予約できたため一部費用に関しては差額が生じる結果となった。 残金については2019年度7月のフランス調査費用の一部に充当する予定である。
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