発展途上国の農村開発において貧困削減と環境保全を並行して実践することは重要かつ困難な課題である。この二つの目的を遂行するには何らかの「仲介役」が不可欠であり、その仲介役として「認証」に着目した。フェアワイルド認証は野生植物(天然薬草、実)に与えられ、採集者の生計向上と対象植物の保全の両方を目的としている。認証の仲介役の機能を考察するために、ブルガリアとインドで現地調査を行なった。ブルガリアでは、同国の貧困層をなすロマ民族が主な天然薬草の採集者だが、移動生活の多い彼らを保全活動に巻き込むことは難しく、比較的裕福なブルガリア人採集者しか保全活動に関与していないことが判明した。従って、研究で焦点を当てるのは、インドで初めてフェアワイルド認証を導入した西ガーツ山脈の2地域になった。 フェアワイルド認証は二つの異なる方法で利用されている。一つは、伝統的に天然実の採集を生業としてきた部族コミュニティに適用し、対象樹木の生育する森林地(野生保護区に隣接する私有地)を保護するとともに、採集の方法をより持続可能なものに変える試みである。採集者の生計向上には効果を上げているが、樹木の保全の面ではむしろマイナスの方向へ進み始めていることが明らかになった。①農作物に適用される認証は栽培と販売の両方に対して動機づけとなるが、野生植物に適用される認証は採集には影響を与えず販売のみを促進すること、②先行研究が指摘する森林地の所有権と経済価値の提供だけでは保全には不十分なこと、二つの仮説を引き出した。もう一つの方法は、劣化の進んでいる集落内の森に同認証による天然実の採集・販売という樹木の新たな経済価値を導入し、住民の保全意識を喚起しようという意図を持つ。今後の進展を観察する必要がある。 最終年度は、国際査読誌での論文発表、及び学会発表(インド開催を含む)を通じ、関連研究者との意見交換を集中的に実施した。
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