本研究の目的は、マダガスカル最大の米産地である中央高地農村地域における農民の経済行動と新農業技術採用の関係性を明らかにすることである。このため2016、2017年度に合計3回の農村調査を行った。これらの調査データを元に、以下の3つの点を中心に分析を行った。1点目は、マダガスカル農村調査によって、村内の社会ネットワーク構造を明らかにし、ネットワーク分析と空間計量経済学の分析手法を用いて新技術採用との関係を議論することである。分析の結果からは、村内ネットワークにおける各世帯のネットワークの強さを示すネットワーク中心性指標や親類ネットワークの変数などが新技術の採択に正の効果を持っていることが明らかになった。2点目は、Non-unitary modelに基づく家計内の意志決定のプロセスが新技術採択にどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることである。オーソドックスな女性の自立性指標、並びに夫婦別のリスク回避度、損失回避度、時間選好率などの変数をもとに分析した結果、夫婦間の交渉能力の差違は新技術採択に影響が無いものの、子どもへの教育投資などにおいては女性の自立性などが有意に正の効果を持つことがわかった。3点目に信用制約の緩和と同価値となる新品種や肥料等の配布、貸与を行い、農業生産における様々な制約を緩和する事で、どの程度の新技術採択率の上昇と生産性の向上が図れるのかを検証した。マダガスカルのような最貧国においては、そもそも新技術に物理的にアクセスが不可能な状況にある世帯が大半である。この制約を緩めたときに、どれだけの農家が新技術の採択を行うのかをRCT(Randomized Controlled Trial)によって検証したところ、制約緩和によって多くの農家が新技術の採用を行うことが観察された。また、パッケージ配布による生産増、利益増の効果が強く見られた。
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