本研究の課題は、エチオピアの低地遊牧民の畜産物の市場流通が成立する要因の定量的な分析を行うことである。従来、自給自足的であったエチオピア北部のアファール遊牧民は、近年の道路網の発達やモバイルネットワークの拡大およびローカルな畜産物市場の拡大によって市場経済のネットワークへ取り込まれつつある。特に、牛乳については、従来販売がタブー視されていた地域においても、現金収入の獲得手段として急速に販売ネットワークが広がりつつある。まず、アファール州北西部地域で予備調査を複数回実施した。次に、アファール州の北部、中部、南部においてランダムサンプリングによる遊牧民世帯の家計調査を実施した。アンケート調査に加えて、行動経済学で用い利他性に関する経済実験により、遊牧民社会の互助意識や社会規範、および道徳規範と遊牧民の関連性について調べた。収集したデータを用いて、計量経済モデルを構築した。 アファール社会では、ローカルな家畜市場の制約がボトルネックになり、牧畜の収益性の低下やリスクの増大を招いていることが分かった。都市に比較的近い地域では乳製品販売に対するタブー意識は低くなるなど、牧畜民の伝統的な価値観が変わりつつある。市場流通網が構築されれば、乳製品をはじめ畜産物の販売が大幅に拡大する可能性があることが明らかになった。すなわち、舗装道路の拡大に合わせて町までの流通ネットワークを構築する政策が求められている。
|