本研究課題は滞在型市民農園を主軸に置きつつ,その可能性のひとつである農村移住の実態についても副次的な目的としている。特に注目しているのが,条件不利地域における移住者および移住希望者に対する各種の情報提供や生活に伴う地域との関わりなどに対する支援を行う地元住民組織についてである。 こうした組織は,田園回帰ブーム以降,全国的に増加傾向にあるが,その立ち上げまでの過程や業務内容,行政との関係や業務に応じた謝礼の有無,そして存続性など,さまざまな点が課題として挙げられる。2017年度はこうした組織に対する情報収集を行った。 調査対象としたのは,北海道黒松内町,ならびに広島県江田島市である。前者は雪深い地域ではあるものの,ブナの原生林が残る知る人ぞ知る観光地であり,移住支援策は早期から行われていた。行政の主導により,地元にもともと住んでおられた方々を中心に,移住者支援のための地元住民組織を立ち上げ,それが長く存続している事例である。後者は,広島市からフェリーで移動できる島嶼部であり,知名度は低いものの温暖な気候から民泊などで好まれる地域である。こちらはとある移住者の主導により,すでに移住された方々による移住支援のための住民組織が立ち上げられ,それを行政が後押ししている事例である。 これら両者は明確に異なる性格を有する。前者の方が行政のサポートゆえに持続性が高く,堅実な活動が行われているのに対し,後者の方が住民のアイディアが活かしやすく,独自性が高く,フットワークが軽い反面,立ち上げを主導したS氏の高齢化に加え,サポートすべき行政の人事異動などが関係し,存続にやや不安が残るという状況であった。
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