平成30年度は、これまでに開発されてきた定期調査データからの河川流出負荷量の不偏推定法であるImportance resampling(IR) 法の抜本的改良がおこなわれ、より標本の再利用効率の高い、流域を選ばない汎用性の高い手法が開発された。この改良は、IR法の基となっている,べき乗型LQ式法(Rating curve method)と重点的サンプリング法を組み合わせた負荷量の不偏推定法であるRCM using IS法の理論的な不偏性の解釈から導かれたものである。すなわち,RCM using IS法で負荷量の期待値の大きさに比例した確率(Probability proportional to size,PPS)での水質標本が不偏推定量を与えられるのは,LQ式の残差について回帰分析の古典的仮定(正規分布,系統誤差や不均一分散がない事,独立であること)と流量が対数正規分布であることによる。実際の流量データは対数正規分布に従わない。このため,定期調査の水質試料採取時のPPS標本の試料採取パラメータβ(=0)が,実際の水質項目のLQ式の指数パラメータβ’と一致するときのみ,ロバストな不偏推定量が得られる。従ってこのβとβ’の差の大きさ,およびβ’自体の不確かさの大きさにより,IR法でのPPS標本の再抽出の基準となる,信頼水準に相当する信頼区間の被覆確率を与えうるAD検定量の非超過確率pの値が決定されることが明らかになった。この知見を基に,各定期調査標本データ毎に,Monte Carlo法により,適切にp値を決定することができ,これによりより多くのPPS標本が得られるようになった。またp値の決定には実際に得られている小数の水質データと河川の連続的な流量データが必要となるが,それらがあれば流域や水質項目を選ばず適用可能となり,汎用性もより一層高い手法となった。
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