研究課題/領域番号 |
15K07649
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
原田 昌佳 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (80325000)
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研究分担者 |
平松 和昭 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (10199094)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | LED / 有機汚濁 / 閉鎖性水域 / 無酸素化 / 溶存酸素 / 水環境修復 / 光合成 |
研究実績の概要 |
本研究の第一の目的である「無酸素化に伴う水環境劣化の原因メカニズムの究明」に関わる内容として室内実験,現地観測および数値計算を行った.まず,閉鎖性水域の有機汚濁問題の要因である嫌気的有機物分解に関する基礎的知見を得るための室内実験を行った.その結果,嫌気的条件下の酸化還元電位の低下や鉄還元に伴うリン酸イオンの増加は高濃度の溶存態有機物や底質の酸化状態の影響を顕著に受けることを明らかにした.また,有機汚濁化現象が顕在した貯水池の現地観測を通じて,嫌気的条件下での水質動態特性を定量的に評価し,この知見を踏まえて,嫌気的な微生物代謝を組み込んだ生態系モデルベースの鉛直一次元水質予測モデルを構築した.本モデルをLDE照射による水底近傍でのDO環境の改善効果に関するシナリオ分析を行い,底泥による酸素消費量,底質からの栄養塩溶出,栄養塩の拡散フラックスなどの観点から底質が改善効果に及ぼす影響に関する有益な知見を得た. つぎに,第二の研究目的である「水中LEDによる水環境修復技術の実用化」では,長期的な嫌気的状態がLED照射によるDO環境の改善効果に及ぼす影響を検討するために,無酸素期間が約1週間と約3か月間の2ケースに対してLED照射実験を行った.その結果,無酸素期間が長期化することで,植物プランクトンの光応答性の鈍化によってDO生産に要する期間が長くなること,さらに還元物質の濃度増大によってLED照射後の酸素消費が増える結果となり,無酸素化・貧酸素化解消にも時間を要することが明らかになった.また.無酸素化に伴う栄養塩の溶出によって,植物プランクトンの発生量が増え,貧酸素化解消後のDOの増加速度は大きくなるものの,その大量発生によって栄養塩の現存量が減少することで付着藻類の繁殖が抑制される結果,DOはピーク以降に減少する傾向が顕著であった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究で提案するLED照射による水環境改善システムの現地適用に向けた有益な知見を得るとともに,その改善効果の評価に欠かせない水質予測モデルを構築できた点で,計画以上の成果が得られた.まず,LED照射までの無酸素化継続時間の長期化によって,無酸素化の解消に至るまでの期間,無酸素化解消後のDOの増加過程,およびDOピーク後の改善効果の持続性,以上三つの観点で,水環境改善効果に与える影響が大きいことが明らかになった.この知見は,LEDによる水環境改善技術の現地適用をする上で極めて重要な研究成果である.本年度では,上記の研究成果に加え,光合成に関する最適光量子量を基準として,LED照射光の強度がDO改善効果に与える影響についても検討しており,この知見も本技術の実用化に向けて貴重な成果となる.さらに,無酸素化が長期化するような有機汚濁水域を対象に水質環境動態を良好に予測可能なモデルを構築できたことによって,無酸素化水域に本技術を適用した場合の改善効果を精度良く評価することが可能となった.以上から,今年度で得られた成果をもとに「有機汚濁が進む閉鎖性水域の水環境保全に向けたLED水環境修復技術の実用化と高度化」という本研究の目的が着実に達成されていることが判断される.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に引き続き,研究目的②「水中LEDによる水環境修復技術の実用化」に向けた室内実験を行い,本技術の確立に向けた基礎的知見の収集を行う.28年度では,長期間的な視点で水環境改善効果を評価するためのLED照射実験を行い,とくに,LED光が付着藻類・水草などの発生,生育に及ぼす影響に加えて,このような植生が水環境改善に与える効果を,光スペクトルや光量子量と関連付けて検討する.また,LED照射光の透過方向の減衰特性を考慮に入れたDO改善効果についても検討し,現地に本技術を適用した際の改善効果を期待できる範囲の推定に利用する.また,研究目的③「生態系モデルに基づく改善効果の定量的評価と技術の最適化」に向けた水環境動態解析モデルを構築する.クロロフィルaの光スペクトル特性を考慮に入れた生態系モデルベースの水質予測モデルを構築し,本技術の修復効果の定量的評価と最適制御ルールの探索を目的としたシナリオ分析を行う.あわせて,付着藻類や沈水性植物の生育プロセスを反映させた水環境動態モデルの構築も行い,環境調和型の水質改善効果の視点から,本技術の有効性・実用性を定量的に評価する.
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