モデル調査地(沖縄県多良間島)において,淡水レンズ地下水から管井によって淡水地下水を取水した際の,取水した地下水および周辺の地下水観測孔における電気伝導度(EC)の径時変化から,取水時のアップコーニングの発生状況および取水終了後の回復状況について考察した。今回検討した井戸(地下水面下深度約2m)周辺の透水性は比較的高く(透水係数k=1×10^-1m/secオーダー),100m3/dayの取水を11日間続けても,揚水した地下水のECの上昇は殆ど見られなかった。一方,直近(距離約1m)の地下水観測孔(地下水面下深度約6m)では揚水中,EC200mS/mに相当する深度が徐々に上昇し,揚水終了時には約1m高くなった。揚水を停止すると同時に観測孔内のECは低下し,4日後にはほぼ元のレベルに戻った。これらの観測結果より,井戸の揚水の影響を受け,観測孔内のECのみが一時的に上昇する現象が発生することをが明らかになった。 上記調査結果より,昨年度に構築した地下水流動モデルの調整に使う観測値は井戸から揚水した地下水のECとし,調整したモデルを用いた多良間島における取水予測計算結果より,アップコーニングの発生とその回復状況について考察した。井戸1箇所あたり淡水レンズから100m3/dayの取水を2ヶ月間続けた場合,淡水レンズ中心部では揚水した地下水のECは200mS/mを下回ったが,井戸が中心部から離れるにつれてECは上昇する傾向にあった。取水終了後の回復については,淡水レンズ中心部の井戸の周辺領域では,取水終了後速やかにECが低下するが,中心部から離れた井戸では取水終了後もアップコーニングの影響が残る傾向にあった。以上より,井戸掘削地点の選定にあたっては,周辺地盤の透水性と,淡水レンズの3次元的な分布状況を勘案する必要があると考えられる。
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