北海道の冷夏は多くの場合,気温は低いが天候の崩れの少ない「晴冷型冷夏」である。この場合,水田水温の低下は少ないので「深水管理」を実施して幼穂周囲を保温すると水稲冷害の被害低減が可能である。 本研究では過去の冷害年を対象に,深水管理の効果を次の方法で評価した。(1)水稲生育モデルに過去の実測気温を入力して,不稔率を推定。(2)水田水温モデルを使用し,当該年の水田水温を推定。(3)水稲生育モデルに,気温に代えて水温を入力して,深水管理を実施した場合の不稔率を推定。(1)については,農林水産省の作物統計データを用いて導いた簡易モデルにより温度効果を概観し,さらに北海道立中央農業試験場が開発したモデルを利用して不稔率の評価を行った。水田水温の推定にはMaruyama and Kuwagata(2010)のモデルの水稲生育パラメータを北海道品種に合わせて修正して使用した。 北海道内3地点(岩見沢,札幌,比布)で気象・水温観測を行い観測値とモデル値を比較した。モデルをそのまま用いた場合,RMSE=1.2℃,ME=-0.7℃で,生育初期に水温を過小評価した。水稲生育パラメータおよび自然対流時の交換係数を修正することでRMSE=0.9℃,ME=-0.3℃と精度が向上した。 25年間(1991年~2015年)の北海道内の稲作地帯10地点の水温をシミュレーションした。障害型冷害の危険期にあたる7月の水温は気温よりも1.5℃~2.7℃高かったと推定された。上記2つの生育モデルで不稔率を推定した。推定方法により各地点,年次での不稔率には違いが大きく生じたが,いずれの方法でも冷害年の低温感受性の高い期間,深水管理により穂が水中に位置していれば,水管理を実施しない場合と比較して約20%不稔を低減できたと推定された。
|