研究課題/領域番号 |
15K07661
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
齋藤 高弘 宇都宮大学, 農学部, 教授 (50221990)
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研究分担者 |
田村 匡嗣 宇都宮大学, 農学部, 助教 (60750198)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 蛍光分光 / ビール酵母 / 抗酸化 / ORAC |
研究実績の概要 |
励起波長が420 nmの蛍光スペクトルには検出波長515, 585, 635, 690 nmにおいて4つのピークが検出できた。検出波長635 nm付近に見られるピークは、他のピークが励起波長毎に検出波長が異なるのに対し、励起波長全てに共通に出現した。既存の知見と照らし合わせると、検出波長630 nmのピークが麹菌からの情報を得るために最適だと判断されており、今回の結果も検出波長が近く、醪中のビール酵母からの情報検出には635 nmが適切と考えられた。励起波長380~440 nm(10段階)における検出波長635 nmの蛍光強度を調べたところ、励起波長425 nmにおいて、蛍光強度は最も大きくなった。このことから、醪の検出波長635 nmのピークを捉えるには、425 nmの励起波長が最適と考えられた。 麦芽のORAC値を分析したところ最大はCH1000の60.5±7.4、で、最小値はTCの5.0±0.4で約12倍の差となった。傾向として、ローストや燻製など麦芽に加工を行う事でORAC値が高くなる可能性が示唆された。ローストなどの加工で、麦芽は褐色に染まる。この色の主成分は抗酸化成分の一つのメラノイジンであるためORAC値に影響したと考えられた。また、産地の違いもわずかに見られ、日本の品種では早熟化、短穂化などが見受けられるため欧米の麦芽よりもわずかにORAC値が低くなった。ホップのORAC値は最大でZTの4.9±0.6、最小値は2.9±0.5で1.7倍の違いがあった。全体の傾向としてZT、HRなどのピルスナー系(一般的に流通しているビール)に用いられるホップの方がORAC値が高くなった。また、麦芽とホップのORAC値の絶対値を比較すると最大で24倍の差が存在し、ほとんどの麦芽はホップよりも高い抗酸化性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ビール酵母の検出に最も重要となる、蛍光分光法の励起波長と検出波長との特定と、ビールホップと麦芽の抗酸化性能(ORAC)の評価が精度よく成し遂げられていることより、おおむね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1週間程度におよぶ酵母の繁殖過程では、本研究で捉えたいとする酵母の菌体量が5倍程度に増殖するのみならず、麦汁中の糖・アミノ酸の変化、アルコール、炭酸ガス、香味・香気成分を生成する。そこで、初年度に明らかにした波長への糖濃度、アルコール、香味成分の変化が及ぼす影響を解明し、発光の主要因を探る。さらに、これらの副次的な含有成分や環境因子の影響を排除し、酵母の繁殖・生命活動に基づく発光なのかを明らかにするために、UV照射などにより菌体を死滅させる事に伴う、発光量の変化も明らかにする。
醸造性に関わる酵母の生理・活性状態の解明には、菌体量の指標のATP法やメチレンブルー法、細胞内情報を検出するpH測定法やセステラーゼ活性法などを指標として、これらの既存の項目と発光値を、繁殖過程を細かく分割して計測し、相互の関係を明らかにする。これらより、発光が酵母増殖量・エネルギー、活性などの何を主たる要因として結びついているかを特定する。合わせて、本手法の分析精度や分析限界を既存の手法と比較してその優位性を判断する。
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次年度使用額が生じた理由 |
微量分注に関わるマイクロプレート用ウエルなどについて、既存の流通品での使用が可能であることが判明し、経費の削減が可能になった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、ATPや酵母活性の計測・評価に関わる試薬類の費用が多く必要となることが想定され、有効に活用する予定である。
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