研究課題/領域番号 |
15K07664
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
野末 雅之 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (30135165)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 人工光型植物工場 / LED / 量子収率 / 光阻害 / 光質 / 遠赤色光 |
研究実績の概要 |
人工光型植物工場では光質・光量などの光環境要因を適性に設定する必要がある。光合成に関与する環境要因は膨大な組合せがあり、的確な光環境要因の設定は容易ではない。平成27年度、クロロフィル蛍光測定により得られるΦIIとETRが、多様な栽培現場での光合成環境を総合的に評価するのに有効であることを示した。平成28年度は、栽培現場における光質設定の基本情報を得るために以下の検討を行った。 (1)赤、緑、青単色光LED照射の光合成システムに対する影響:各種光質下でシロイヌナズナを栽培し、Chla/b、PAMクロロフィル蛍光測定(ΦII、qP、Fv’/Fm’、Fv/Fm、NPQ)、光化学系タンパク質の半定量解析を行った。解析の結果、光質によって光合成システムに対する影響が大きく異なることが明らかになり、人工光型植物工場における光質選択の重要性が改めて示された。 (2)遠赤色光(FR)の光阻害緩和効果:初年度、赤色光照射下でD1の修復が阻害されFv/Fmが顕著に低下することを指摘したが、今回、この赤色光で誘導される光阻害がFRで緩和されることを明らかにした。また、R/FR比が緩和効果に影響することを白色LEDを用いて示した。FRによる光阻害緩和の理由は不明だが、FRが高光量下での量子収率の低下を抑え、光合成速度をより高めることができることがわかった。 (3)白色LEDに含まれるFRの生育促進効果:光合成効率と光合成速度は相反する。高光量でも量子収率の低下が僅かで、より高い光合成速度が維持される光環境が理想といえる。今回、R/FR比の異なる白色LEDを用いてレタスを栽培し、異なる光量下におけるΦIIと生産量との関係を調べた。R/FRが最も低い白色LEDで、高光量下でのΦII低下が最も小さく、生産量が最も増大した。この結果は、人工光型植物工場における遠赤色光利用の有用性を示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、人工光型植物工場における最適な光環境を設定するために、栽培現場の光合成環境を総合的に評価する方法を確立することである。そのために、(1)クロロフィル蛍光測定によるPSII量子収率を指標にした植物育成における効果的なLED照射法の構築し、(2)人工光型植物工場における光環境最適化のためのLED照射の標準化の提案、(3)省エネルギー栽培法を実証する。 LED光源を用いる人工光型植物工場での主要な光環境要因は光質と光量であり、栽培現場での最適な光質と光量をどのようにして選択、決定するかが課題となる。現在迄に、適性光量の評価に関しては、PSIIの実効量子収率(ΦII)とPAR(光量)の両パラーメータを含む電子伝達速度(ETR)が有効であること、光質が異なれば適性光量が異なることが明らかになった。また、光合成効率の著しい低下とバイオマスの減少をもたらす光阻害に対する光量および光質の影響についても解析が進んだ。 上記の進捗状況から「おおむね順調に進展している」と判断したが、現時点での次の課題があげられる。(1)最適な光質の選択方法:ある光質での適性光量の評価は可能だが、栽培実証以外の方法で最適な光質(分光スペクトル)を決める的確な方法がないことである。特に最近では、様々な分光スペクトルをもつ白色LEDが開発されており、光質選択の自由度だ飛躍的に増した反面、最適な光質の選択がより複雑化している。(2)光環境以外の要因の評価:温度、湿度、CO2濃度、養液濃度などは光合成速度に影響し、これらの要因により最適な光量は変動しうる。従って、省エネルギー栽培を実証するためには光環境以外の要因も考慮した最適化が必要となる。これらの課題については、次年度の研究で対応する。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの解析結果(ΦIIとETRに基づく適性光量の評価、光質による適性光量の違い、光阻害に対する光量・光質の影響)を踏まえて、今後、省エネルギー栽培法を実証し、提案する。 本研究での省エネルギー栽培とは、高い光合成効率(照射した光エネルギーがCO2固定にどれだけ有効に使われるか)が保持された状態での植物の育成を意味する。ΦIIは光合成効率に、ETRは光合成速度に反映される。ΦIIは光量の増大ともに減少するが、ETRは光量が増せばある光量範囲内で増大する。一方、高光量下での光阻害はΦIIとETRを著しく低下させ、光合成効率と共に光合成速度も顕著に低下させる。従って、省エネルギー栽培とは、光阻害が起こらない状況下で、ΦII低下を最小限に食い止め、ETRを最大限に保つ栽培法といえる。 今後の研究では、光合成効率などの光合成特性に関して以下の検証を行うことにより、省エネルギー栽培法を実証する。栽培品目はシロイヌナズナ、ロメインレタス、ワサビ、ホウレンソウなどを用いる。(1)広域スペクトルをもつ多様な白色LEDを用いて光質組成のΦIIおよび生産性に対する影響を調べる。(2)遠赤色光の光阻害緩和効果機能の解明と遠赤色光の光合成特性(植物形態、受光面積、ΦII、光量特性など)に対する影響を調べる。(3)光環境以外の要因(CO2濃度、養液、温度など)のΦIIおよび光阻害感受性に対する影響を調べる。 上記の解析結果を総合し、光エネルギー効率の優れた栽培システムを構築、提案する。
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