研究課題/領域番号 |
15K07666
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
黒木 信一郎 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (00420505)
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研究分担者 |
伊藤 博通 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (00258063)
中野 浩平 岐阜大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (20303513)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 脂質過酸化物 / 膜の流動性 / アクアポリン / PIPファミリー / 水伝導係数 / 平均破壊浸透圧 / プロトプラスト / 二層流法 |
研究実績の概要 |
細胞膜の水透過性を指標とする鮮度評価理論の構築を目的として、本年度は、種々の酸素濃度条件下に貯蔵したホウレンソウ葉細胞膜の物理化学的特性、およびアクアポリン遺伝子の発現量を調査した。 その結果、脂質過酸化反応の最終産物であるマロンジアデヒド(MDA)当量が収穫後日数の経過に伴い増大すること、およびその増大が低酸素濃度により抑制されることを明らかにした。また細胞膜水伝導係数も収穫後の時間経過に伴い増大する傾向があるものの、その有意な増大はMDA当量が有意に増大した後に認められることを示した。このことから、膜脂質過酸化物の蓄積が膜の水透過性の増大よりも先駆的に生じることを明らかにした。 また、MDA当量と細胞膜の平均破壊浸透圧との間に高い正の相関関係があることを明らかにした。平均破壊浸透圧の増大は、膜脂質過酸化物の蓄積によるゲル相領域の形成に伴う細胞膜強度の低下を示していると考えられた。収穫後におけるアクアポリン遺伝子の発現量変化は遺伝子ごとに異なったものの、収穫後の時間経過に伴って、貯蔵酸素濃度に関わらず減少することが明らかとなった。これにより、アクアポリンを経由する水移動は鮮度劣化に伴い減少すると考えられた。以上の結果から、収穫後において膜の水透過性にアクアポリンが与える影響は小さいこと、および膜透過性増大は脂質二重層の過酸化に伴うゲル相領域の形成に起因することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
収穫後におけるホウレンソウ葉の細胞膜の水透過性を、二層流法によって測定すると同時に、脂質過酸化物の蓄積を示すマロンジアルデヒド当量の増加やそれに伴う細胞膜破断強度の低下を明らかにした。また、Real-Time RT-PCR法によって、PIPファミリーの4遺伝子、およびTIPファミリーの1遺伝子の発現量が収穫後の時間経過と共に低下することを明らかにした。これらにより、細胞膜の水透過性に影響するファクターとそれらの関係性が多面的に明らかになりつつあると評価される。他方、次年度からの顕微分光画像計測のための実験系の確立においては、広い波長帯における測定を実現するための物品の選定などに予想以上に時間を要している。以上を総合すると、本研究課題はおおむね順調に進展していると自己評価される。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、環境要因に温度を加え、リン脂質膜の過酸化・分解現象、アクアポリンの発現と活性、および膜の力学的物性の変化等、膜の化学的・物理的・分子生物学的性質を多面的に計測することによって、各種貯蔵温度およびガス環境が細胞膜の水透過性に与える影響について検討する。また、二層流法によって得られる水伝導係数と核磁気共鳴法によって得られる拡散透水係数との比較により、細胞膜の水透過性に関するより詳細な知見を収集する。さらに、顕微分光画像計測によって、細胞膜機能劣化に関する分光学的解釈について検討する。これらによって、貯蔵・流通中における細胞膜の水透過性の変化に基づいた鮮度評価の妥当性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に実施する顕微画像計測のために、前年度より実験系の確立の準備をする予定であった。しかし、関連の消耗品の選定に想定よりも時間を要したため、次年度使用額が生じた。具体的には、近赤外光に対応した鏡筒や対物レンズ、ステージ、光源などについて、デモ機のレンタルなどによる評価を行ったものの、価格と性能を満足させる選定が困難であった。また、新製品が販売されたことに伴った物品の評価数の増大や、一部のメーカーの社屋移転に伴う日程調整の遅延も大きく影響した。
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次年度使用額の使用計画 |
デモ機のレンタル等による購入予定物品の性能評価を引き続き実施して、最適な物品の選定を行う。これにより、顕微分光画像計測関連の実験系を確立する。
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