研究課題/領域番号 |
15K07673
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
庄野 浩資 岩手大学, 農学部, 准教授 (90235721)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 艶の波長特性 / 光沢 / 分光特性 / 光合成活性 |
研究実績の概要 |
平成27年度の成果は,従来のデジタルカメラによる画像撮影装置にかわる,高性能型分光分析計を中核とする広波長域型の“ダブル偏光フィルタ法”測定装置の開発である。この際,分光分析計の設置は,既に過去の研究で使用した装置を使用して比較的早期に完了したが,最大の課題は従来の白熱光源の刷新であった。同光源は滑らかな波長特性を有し,むしろ分光測定用の光源には適しているものの,青色域の照射エネルギー不足に加え,発熱による熱エネルギーが光源前の偏光フィルタを劣化させる致命的な問題があった。これまでは測定時間が短時間であったため,熱の問題は顕在化しなかったが,広波長域の分光測定には相応の時間が必要なため,熱による偏光フィルタの劣化が避けがたいことが判明した。そこで今回,各種光源を複数試験し,その発熱量や波長特性を総合的に検討した結果,白色LED光源が,近紫外ならびに近赤外域での照射エネルギー量に課題はあるものの,波長特性は十分滑らかであり,しかも発熱量が極めて少ない効率的光源であると判断し,本研究の光源として採用することとした。 光源の問題は一応の解決を見たが,研究に最適な広波長域型の偏光フィルタは市場販売例が少なくその選定は容易ではない。このため,選定作業は継続しつつ,作業完了までは従来の可視域フィルタで試験運用し,完了後に交換することとした。また,分光分析計受光部の形状は規格外のため,樹脂フィルム製偏光フィルタを適宜加工して設置した。その後,リンドウ花冠等を対象とした試験測定を実施し,少なくとも可視域では必要な性能を有することを確認した。今後は早急に最適な偏光フィルタを装着し,開発装置を完成させつつ,今回導入した光合成測定装置等との同時測定環境を実現させる。さらに,”艶”の波長特性と植物生理的パラメータとの関連性ならびにその有効性を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の立案時は,まず平成27年度,紫外から近赤外域までの広い波長域を測定可能な高精度かつ高波長分解能な測定装置を新開発し,従来の“ダブル偏光フィルタ法”をさらに発展させることを目的としていた。そのためには,まず,(1)使用する2枚の偏光フィルタを紫外から近赤外域まで対応した広波長域型のタイプに変更する,次に,(2)高性能型分光分析計を中核の測定装置として新たに準備する必要があった。実際には,光源の刷新に時間がかかったものの,必要十分な性能を有する分光分析計を装備することに成功し,測定装置の中核はほぼ完成したため,(2)の項目は既に達成したと言える。一方,(1)は,現在,研究に最適なフィルタの選定を慎重に進めており,現状では従来の可視域型偏光フィルタを使用した試験運用の状況であるが,選定が完了すれば,フィルタの交換は即座に可能なため,装置の完成は時間の問題と考えられる。以上の状況を踏まえ,目的の早急な達成は十分可能と判断できることから,おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は,まず前年度の装置開発において部分的課題として残った最適な偏光フィルタの選定を完了し,測定装置の早急な完成を目指す。さらに,様々な植物材料を準備し,同測定装置を用いて植物体表面の“艶”の波長特性を測定する。また,前年度に導入した光合成測定装置による様々な光合成活性指標や,分光特性などのその他様々な植物生理的パラメータを,“艶“の波長特性と同時に測定可能な環境を実現する。その後,同特性ならびに同時測定して得られた各種生理的パラメータとの関係性を統計的な手法を駆使して詳細に比較検討し,例えば,同特性との関連性が明確に現れる波長域,感度及び測定の安定性等の解析・評価を進める。この際,測定対象としては,栽培した植物だけでなく,例えば切り花や青果物などの種々の農産物を対象に加えて同様の検討を行い,農産物の品質評価や保蔵時の鮮度劣化の早期検出などにおける“艶”の波長特性のさらなる有効性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
まず,平成27年度に新規導入した光合成測定装置(MINI-PAM II)の購入費用が,見積り等から想定していた金額よりも若干低かったこと,さらには,新開発の測定装置の中核となる高性能型分光分析計は本来高額な装置であるが,今回は過去の研究で既に導入して現在は未使用の機材を使用したために同機材の購入費用が発生しなかったこと,また,比較的高額な広波長域型偏光フィルタの選定に時間がかかり,その導入が次年度に先送りとなったことなど,以上,3つの事項が次年度使用額が生じた主な理由である。またその他にも,装置の開発時に必要となる細かな部品類や,試験測定用の植物材料などの種々の消耗品類に関しても,過去の研究で余剰となった資材・材料の使用が可能であったため,必要経費が生じなかったことも理由の一つである。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度に新規開発した“ダブル偏光フィルタ法”の測定装置を完成させるため,平成28年度は,広波長域型偏光フィルタを早期に選定し,導入する必要があるが,その販売価格は比較的高額であるため,次年度使用額の一部を使用する必要がある。さらに最適なフィルタの装着後,完成した測定装置を用いて様々な植物対象を測定し,同装置ならびに”艶”の波長特性の有効性を検討する。この際,その実験材料として,各種農産物等の購入費用,さらには,植物を栽培する際に必要となる,各種育成装置の製作ないしは関連機材の購入費用の一部として,次年度使用額を使用する予定である。
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