研究課題/領域番号 |
15K07673
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
庄野 浩資 岩手大学, 農学部, 准教授 (90235721)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 葉面の滑らかさの波長特性 / 偏光・分光反射特性 / 植物の環境応答 / 水ストレス / 温度ストレス |
研究実績の概要 |
本年度の研究では主な実験材料としてコマツナおよびホウレンソウ葉を用いた。まず,デシケータによって水飽和状態から乾燥状態まで水分状態を変動させ,様々な水ストレス状態の材料を準備した。また今回は環境温度を10℃から45℃まで変更した実験材料を準備し,温度ストレスに対する有効性も検討した。各ストレスの進行と並行し,開発した測定装置で400nm~800nmの可視・近赤外域における偏光・分光特性(滑らかさの波長特性)を経時的に測定した。この際,偏光角度は0°から90°までの10段階に変更した。最終的に,各波長域において,偏光角度の異なる10個の分光反射率から各種指標(例えば偏光度,あるいは偏光角度間の平均値等の各種統計量)を算出し,相対含水率の推移との間(水ストレス),さらには環境温度の間(温度ストレス)との相関性を解析して本研究の最終的な目標である偏光・分光反射特性(滑らかさの波長特性)に基づく各種ストレスの推定が可能か否かを検討した。 ここでは水ストレス負荷実験の結果を記述する。コマツナ,ホウレンソウ葉のいずれにおいても,広い波長域において,各種指標と相対含水率間に高い相関性が認められた。この際,両者に共通して高い相関性を示す波長域と,特定の品目だけで高い相関性を示す波長域があったことから,各指標が,品目間における含有色素の構成の違い,あるいは葉内の組織構造の違いを反映する可能性が認められた。この際特にコマツナ葉では,700nm~800nm付近の,クロロフィル等の色素吸収の無い波長域で相対含水率と指標間の相関性が大幅に上昇する現象が認められた。色素と無関係な波長域における本現象は,同指標が,例えば細胞の扁平化等の形状変化を反映する可能性を示しており,同指標,すなわち滑らかさの波長特性を用いて,水ストレスに起因する葉内の組織構造の変化の推定が可能であることを示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
植物体の偏光画像データと植物状態量との関係については既往の研究例が若干あるが,これらが植物体の水ストレス,さらには温度ストレスなどの各種ストレスの早期発見に有効か否かを検討した例はほとんどない。また既往の研究例では,偏光角度を0°と90°の2種類のみとする例が大半であり,しかも広い波長域における詳細な検討例もほとんどない。一方今回,本研究では,偏光角度を0°から90°までの10段階に設定するだけでなく,可視域から近赤外域までの広く詳細な波長域における偏光・分光反射特性,すなわち滑らかさの波長特性の測定を初めて行った。さらに本研究は,それに基づく各種指標を算出し,それらと水ストレス等による植物状態量との間の相関性を検討した初めての例である。その結果,水ストレスの進行による組織構造の変化の状況など,従来の同種の測定法では実現できなかった新たな生育情報の測定の可能性が示唆されたことから,当初の目的である,偏光・分光反射特性(滑らかさの波長特性)に基づく水ストレス等の早期発見手法の開発にさらに近づいたと考えられる。 以上の研究成果を考慮すると,本研究はおおむね順調に進展していると十分判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今回の偏光・分光反射特性(滑らかさの波長特性)の測定では,400nm~800nmにおける波長域を10段階の偏光角度で測定した。この結果,一件の測定データが約4,000項目(=400(波長域数) X 10(偏光角度数))もの膨大なデータセットを有することとなった。本データセットは本来2次元(波長 X 偏光角度)であるが,項目数が膨大なため,今回はこれらの2次元データと,相対含水率などの植物状態量との間の相関性を直接検討することが困難であった。このため今回の解析では便宜的に,各波長域毎の10個(偏光角度数)の反射率を,偏光角度間で平均するなどして1次元(波長)の指標に縮小し,これらと植物状態量との間の相関性を検討するに留まるざるを得なかった。このため,本来2次元のデータを1次元に縮小する過程で有用な情報が排除された可能性は否定できない。 今後は,解析に使用するコンピュータの計算能力を,例えばGPGPUの導入などで飛躍的に向上させ,ディープラーニングなどの膨大なデータを取り扱える新しい解析手法を導入することで,2次元の4,000項目のデータセットと植物状態量間の関係性を,次元を縮小せずに検討する解析環境を実現する予定である。これにより,有用な波長域と偏光角度の組み合わせなど,2次元的な解析および考察が可能となる。この結果,水ストレスを始めとする各種ストレス下にある植物状態量を推定する情報としての,偏光・分光反射特性,すなわち滑らかさの波長特性の有用性がさらに明確になると期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,研究代表者が,昨年度末に発症した急性頸髄性脊髄炎(約1ヶ月の入院加療)の後遺症を抱えた状態での研究開始となった。さらに本年度内においても,急性膵炎の発症による入退院と加療,さらにその後も,胆嚢結石症の発症による胆嚢全摘手術のための入退院と加療など,度重なる入退院と加療のため,健康上の制約を受けつつ研究を実施せざるを得ない状況となった。幸い,周囲の協力もあり,研究自体は概ね計画の通り実施できたが,当初予定していた測定装置の大幅な改良や,新たな測定装置の導入などの計画が遅れる結果となった。このため,研究遂行のために消費した研究費が,当初の計画に比べて少なくならざるを得なかった。以上の理由により,次年度使用額が生じる結果となった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は,膨大となった2次元の測定データセットを効率よく解析する環境を整えることを念頭におき,コンピュータなどのデータ解析装置の大幅な性能向上を図る予定である。さらに,より優れた研究成果を導き出すために,植物材料の育成や水ストレスを始めとする各種ストレス環境の実現,ならびに植物状態量の測定のための各種装置の新規導入を計画している。繰り越した研究費は,これらのデータ解析環境の整備や実験装置の新規導入などに適宜,有効利用する予定であり,本研究の成功のために大いに寄与するものと期待できる。
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