植物体の分光特性は色素濃度と密接な関係にあり,既往の研究例も豊富である.しかし分光特性だけでは植物組織の内部構造の状態を知ることは難しい.一方,偏光性を持つ光が植物内部でどの様に反射・透過するかについては知見は少ないものの内部構造の影響を受ける可能性は十分考えられる.そこで本研究では,測定光の偏光角度を0°から90°まで10°刻みに変更しながら分光測定を同時に行う(分光・偏光特性の測定)ことで,従来の分光測定では実現できなかった植物組織の内部構造に関連する新たな生育情報を非破壊測定し,そこから水ストレス等の環境応答を測定する可能性を検討した.実験として,サンプル葉の乾燥過程と,12時間連続光照射過程における分光・偏光特性の推移を観察した. 1)乾燥(水ストレス負荷)実験 乾燥過程の反射率を波長と偏光角度で2次元表示した画像から,RWCが約70%の時に偏光性が一時的に低下し,さらに約60%で偏光性が回復する現象が観察された.この結果は,植物細胞が原形質分離等の構造変化を起こし偏光性が一時低下した状況を反映すると考えられ,本測定法から水ストレスを検出することが可能であることを示す重要な結果である. 2)12時間光照射(光合成)実験 光照射しなかった暗区と照射した明区の乾物率は明区の方が約2%程度有意に高い結果となり(危険率5%以下),明区で実際に光合成が進行したことを確認した.近赤外域の反射率において,明区の偏光角度0°では処理後に反射率が減少する一方,90°では大きく増加する現象が観察され「明区では暗区よりも偏光性が低下した」.この現象は,明区で光合成が進行した結果,葉緑体内のデンプン粒等の光合成産物の蓄積が組織の内部構造を変化させ,偏光特性を低下させたことを示唆しており,分光・偏光特性から葉内の光合成産物の産生状況を測定する可能性を示唆する重要な結果と考えられる.
|