研究課題/領域番号 |
15K07675
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
米澤 千夏 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (60404844)
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研究分担者 |
渡邉 学 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, その他部局等, 研究員 (10371147)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 合成開口レーダ / フルポーラリメトリックSAR / 多周波数 / 散乱成分 / 偏波依存性 / 水稲 / 大豆 / 食害 |
研究実績の概要 |
観測に用いる周波数帯(バンド)の異なる合成開口レーダによる全偏波観測データの解析をおこなった。 1. 航空機搭載Xバンド合成開口レーダの観測データに対して固有値解析および散乱成分への分解を適用した。 仙台市沿岸部において、2013年および2014年にそれぞれ異なる4方向から観測したデータを解析した。2014年観測データのうち、観測方向がおよそ南から北および西から東のデータでは偏波依存性を示すα角に入射角の影響がみられた。そのほかのデータでは、一般的にα角は水稲圃場ではおよそ45度から60度を示したのに対し、大豆圃場や畑地、作付されていない圃場では45度よりも小さくなる傾向がみられた。散乱成分への分解によっても作付状況は抽出可能であった。水稲圃場では大豆圃場よりも2回散乱成分が大きくなり表面散乱成分が小さくなった。また、裸地となっている圃場では表面散乱成分の割合が大きくなった。また倒伏があった水稲圃場では、倒伏がみられなかった水稲圃場よりも2回散乱成分の割合が小さく、体積散乱成分の割合が大きかった。 大崎市の農地を2013年と2014年にそれぞれ2方向から観測したデータを解析した。いずれの解析データにおいてもα角に地形の影響がみられた。これは各偏波間で伝播距離が異なることによって生じる位相誤差をあらわしている。この位相誤差は、地表面の局所入射角に依存し、山間部で影響が大きくなることが指摘されている。なお、対象とした圃場ではデントコーンのツキノワグマによる食害が報告されており、観測データには食害のパターンがみられた。 2. 航空機および人工衛星に搭載されたLバンド合成開口レーダによる全偏波観測データの解析をすすめた。Cバンド合成開口レーダの解析結果と比較すると、Lバンドでは2回散乱成分において水稲圃場と他の作付作物との違いが明瞭にあらわれた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マイクロ波の散乱メカニズムの違いを利用して作物の種類の判別をおこなった。計画どおり仙台市若林区内の圃場および宮城県大崎市の旧東北大学農学部附属農場についての合成開口レーダの全偏波観測データを解析した。作物の生育期に取得したXバンドとLバンドの異なる観測周波数帯のデータを解析し、いずれにおいても、水稲と大豆の違いは明瞭であり、また水稲の倒伏についても抽出できる可能性が示された。ただし、対象とした作物は水稲、大豆が中心である。また同じ作物でも散乱特性がLバンドとCバンドの観測周波数帯の違いによって異なることを明示した。Xバンド航空機観測データに対して、平成28年度以降に予定していた圃場単位での解析をおこなった。ただし、作物の種別の判別のためには位相誤差に関する課題が残されている。 平成27年度には人工衛星搭載合成開口レーダでは10月上旬と中旬に、航空機搭載合成開口レーダでは2月下旬と3月中旬に全偏波観測を実施している。いずれも主要な作物の生育期ではないが、小規模な露地野菜が作付されている圃場を対象に現地調査をおこなっている。 なお、データ入手においては宇宙航空研究開発機構によるALOS-2第6回研究公募において研究テーマ「ALOS PALSAR-2 の精密農業への利用可能性の検討」が新たに採択され、人工衛星搭載合成開口レーダによる観測データが最長2021年度末まで利用できるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
◇Lバンド合成開口レーダ全偏波観測データの利用技術の開発 Lバンドは日本が打ち上げる人工衛星搭載合成開口レーダで採用が続いており、農作物の判別における利用技術を開発する必要がある。ALOS-2 PALSAR-2の観測シミュレーション結果によると、平成28年8月4日に対象地域を全偏波観測モードで取得することが予定されている。観測日前後において詳細な現地調査を実施し、調査結果をもとにデータ解析をおこなう。平成28年度は特に水稲、大豆以外の麦、綿花、果樹等の作物に注目する。また、平成27年度に取得された人工衛星および航空機による観測データについても解析をすすめる。 ◇圃場単位での作付作物の判別手法の開発 Lバンド合成開口レーダ全偏波観測データに対して、圃場単位での作付作物の判別手法を開発する。Lバンドで取得したデータはXバンド取得データよりも空間分解能が大きく、判別が難しくなる。Lバンド合成開口レーダによる農作物の判別についての現段階での限界を明らかにする。 ◇観測周波数帯の違いによる散乱メカニズムの違いの明示 平成27年度には、水稲、大豆において散乱特性が異なることをLバンドとCバンドについて明示した。さらにXバンドデータについても解析をすすめ、観測周波数帯ごとの散乱メカニズムの違いを明示する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成24年から26年度まで実施予定だった科学研究費助成事業による研究課題「リモートセンシングによる圃場単位での津波からの農地復興過程の追跡と考察」をALOS-2衛星の打ち上げの遅れ等の理由により1年間延長した。そのため、平成27年度は二つの研究課題を平行して実施した。津波被災農地を対象とし、多周波・多偏波マイクロ波リモートセンシングデータの解析をおこなうことによって得られた成果の発表において、平成27年度終了課題の旅費を使用した。また解析用パーソナルコンピュータの購入を予定していたが、みあわせた。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費としてデータ保存媒体ほか消耗品費に10万円、GISソフトウェアのモジュールアップデートのために50万円。旅費として国際学会での成果発表(IGARSS2016 北京)のために23万円、国内学会での成果発表のために8万円、研究分担者との打合せに10万円、現地調査のために5万円。謝金として圃場ポリゴンデータ整理等のデータ整理のために30万円。その他として圃場ポリゴンデータ利用料に50万円、学会参加費(海外1回、国内1回)に8万円、論文投稿料として8万円、英文校閲に2万円を予定する。
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