平成29年度は、昨年度までに構築した高精度計測システムを使用して、葉の振動計測と土壌伝搬音速計測の協調計測を複数回実施した。実験に使用した小松菜は、市販培養土を用いて種から室内育成したものである。協調計測は播種から約30日程度経過してから行われた。伝搬音速計測用の超磁歪振源と加速度センサは小松菜の根圏をはさむようにして、地表面から深さ約5.5cm及び約10.5cmの位置に約14cmの離隔で配置し、同じ深さで音波伝搬経路横に水分センサを埋設した。計測用波形として350Hzのバースト波を8分おきに送信して伝搬音速と体積含水率を計測した。また、葉の振動計測用の音源およびレーザ変位計を葉の上面から約15cm程度の位置に配置し、葉の振動数を含む2Hz~5Hzの帯域幅をもつバースト波を5分おきに1周期照射したときの葉の共振周波数を計測した。 健全な小松菜の場合、葉の共振周波数は安定した日周変動を繰り返しているため、灌水停止後の共振周波数の時間変化について着目した。その結果、灌水を停止してから約2日程度で、共振周波数ピークの時間位置が変化して午後18時以降の消灯後になることがわかった。この状況では目視でも明らかに葉に「しおれ」が生じていたことから、植物にダメージを与えずに節水を行う最適な灌水停止期間は、1日程度であると推測された。そこで、灌水停止期間を1日とした実験を実施したところ、予想通り日周変動に影響が出ないことが明らかになった。これらの実験の間、土壌伝搬音速は体積含水率の変化に反比例する結果が得られており、節水した場合には伝搬音速が上昇するため、植物根圏内の水分推定に利用できることが判明した。しかしながら、目視で葉に「しおれ」が生じていない状況でも、葉の共振周波数のピークの時間位置変化は計測できることから、感度的に植物の感じる水ストレス評価には葉の振動計測が適していると思われる。
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