研究課題/領域番号 |
15K07688
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
恒川 直樹 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (50431838)
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研究分担者 |
九郎丸 正道 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (00148636)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 精原幹細胞 |
研究実績の概要 |
精子の幹細胞である精原細胞には未分化型と分化型が存在し、このうち未分化型を精原幹細胞もしくは配偶子幹細胞と呼び、精細管内のニッチと呼ばれる微小環境に存在する。その分裂はセルトリ細胞により構成されたニッチシステムにより制御され、マウスを材料にして動態が少しずつ明らかになってきた。しかし、周年繁殖のマウスは、常に精子発生の活性が高く、このためニッチシステムが機能的に簡略化されている可能性がある。本質的な制御機構を明らかにするためには、生殖細胞の数を激しく変動させる季節繁殖動物を精査する必要が生じた。そこで本研究では、精原幹細胞のニッチシステムの普遍性を調べるため、季節繁殖動物のハムスターを中心に、セルトリ細胞からのGDNF(Glial cell line-derived neurotrophic factor)分泌と精原幹細胞の動態との関連性を明らかにし、ニッチ環境を分子レベルで解明することを目的としている。 生後8週齢のハムスターを、非繁殖期へ的確に導入するため、暗条件下(明6時間・暗18時間)、低温下(16℃)で飼育し、その上で一過性の食餌制限を行ったところ、従来の手技に比べて効率よい材料供給が可能となった。5,7,9,11,13、15週後に精巣を採材して、各々の血清からLHとFSHを計測することにより、ホルモンレベルでの評価を行ったところ、非繁殖期への導入を裏付ける結果が得られた。これらの材料より精巣組織から精細管を単離し、常法に従い固定後、whole mount標本において、GDNF、GFRα1の二重染色を施し、両因子の分布パターンを検討した。特に、活発な精子発生が認められる8週齢を比較対象として、非繁殖期へと至る過程を追って比較検討したところ、精細管上での分布の相違点が一部が徐々に明らかになってきた。以上の一部は国際誌に発表した(Aiyama, Tsunekawa et al 2015)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者は、平成27年4月に研究機関の異動が生じたため、動物実験の大幅な遅延が生じることが予想されたが、研究分担者との連携により概ね回避することができた。平成27年度の計画では、(1)非繁殖期ハムスターの作出、(2)GDNF陽性/陰性領域におけるGFRα1陽性細胞のシグナル系の検討、(3)形態計測による比較解析、(4)比較形態学的解析を行った。このうち、(1)~(3)については、平成27年度計画を超える成果を得ることができた。一方(4)については、異動先の動物室利用の環境整備により、やや遅延が生じた。これら総合すると、おおむね順調に進展していると考えることができる。
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今後の研究の推進方策 |
非繁殖期から繁殖期(精子発生再開過程)の変化を調べるため、段階を追ってGDNF、GFRα1発現の変化を調べる。疑似冬眠を導入したハムスターを、明条件(明16時間、暗8時間)、室温、通常栄養状態にもどし、5、10、20週後に精巣を採材。生後8週齢のハムスターを、暗条件下(明6時間・暗18時間)、低温下(16℃)、で飼育し、一過性の食餌制限下により非繁殖期に導く。期間は詳細な検討が必要で、現在のところ13週間を目安に先述の条件で飼育して、非繁殖期の状態を維持する。その後、明条件(明16時間、暗8時間)に設定し、通常の室温ならびに栄養状態飼育して、5、10、20週後に精巣を採材する。各々の血清からLHとFSHを計測することにより、ホルモンレベルでの評価も行う。さらに、必要に応じて、生後1~8週齢までの発育過程を対象に、GDNF、GFRα1発現の比較解析を行い、ニッチ形成の機序を明らかにする。続いて、SSCsが集積するニッチを精細管レベルで単離し、アガロースゲルによる器官培養(小川法)により培養を試み、上記(2)の細胞移植実験との比較を行う。さらに低温培養に切り替え、冬眠期を想定した環境で試み、SSCsの挙動を経時的に追跡し、生体環境との比較を行う。 なお、平成27年度計画においてやや遅延が生じていた比較形態学的解析を積極的に展開し、イヌ、ヤギ、スナネズミ、さらには一部の鳥類での比較形態学解析は、抗体の交差性を確認する作業に力点を置き、精巣内のニッチ領域の特定をすすめる。アカネズミ、ヒミズ、スンクス、ホンドタヌキ、シカ、クマなども研究対象に加える計画。
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次年度使用額が生じた理由 |
代表者の所属異動に伴い、新所属での動物飼育室の利用に調整を要した。このため、比較形態学的視点に基づく動物実験が一部遅延し、使用額に変更が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
動物飼育や動物実験に必要な物品費として使用予定。具体的には、動物飼育ケージ、動物飼料、床敷き、麻酔機器、手術道具などを計画している。
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