平成30年度は以下のことを明らかにした。 1.走温性発現精子の細胞内カルシウム動態の解析:ベラパミル、ミベフラジルによるカルシウムチャネル阻害区ではいずれも走温性が阻害された。カルシウムチャネル阻害区の直線速度、曲線速度および尾部打頻度は、走温性発現区に比べ低下した。走温性発現精子のカルシウム濃度は、温度変化にともない変化した。カルシウムチャネル阻害区のカルシウム濃度の変化は緩慢であった。2.走温性発現精子の分子薬理学的調節機構の解明: tmACの阻害剤であるddAとsACの阻害剤である2CE添加区では、走温性が阻害され、sACおよびtmACのいずれも、ウシ精子の走温性の発現に関与することが示唆された。また、温度勾配条件下では、オプシン阻害剤であるヒドロキシルアミン(HA)添加区では両温域に移動した精子数に有意差はなく、ウシ精子の走温性におけるオプシンの関与が示唆された。3.走温性発現精子の運動の解析:温度勾配条件下では、対照区、ヒドロキシルアミン(HA)区における移動精子の直線速度、曲線速度、軌跡速度、尾部打頻度および尾部振幅のいずれにおいても有意差はなかった。また、温度勾配条件下では、対照区とカルモジュリン阻害剤であるW7区において、移動精子の直線速度、曲線速度、軌跡速度、尾部打頻度および尾部振幅のいずれにおいても有意差はなかった。以上のことから、ウシ精子が高温域に移動する走温性発現機構の解明には、直線速度、曲線速度、軌跡速度、尾部打頻度および尾部振幅以外の運動機能が関与していることが推察され、さらに異なる運動解析パラメータによる解析が必要であると考えられた。
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