研究課題/領域番号 |
15K07692
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
磯部 直樹 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (80284230)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 乳房炎 / 抗菌因子 |
研究実績の概要 |
乳房炎による被害は深刻であるが,予防・治療法が確立していないため発症率は低下していない.特に慢性乳房炎による被害が多く,これの防除は喫緊の課題である.我々は乳腺で抗菌因子が合成されることを見出した.乳は直接食品となる上に,脱抗生物質が望まれることから,感染細菌を排除するために抗菌因子を利用することを着想した.そこで,乳腺内での抗菌因子の濃度を最大限にすることで細菌を一網打尽にする革新的な手法を開発するため,抗菌因子の発現機能に着目した処理法の効果を検証する研究を実施している.平成28年度にはエストロゲン(E)投与により乳産生量を抑制し,乳中抗菌因子の濃度を上昇させることを発見した. 本年度は、搾乳を3日間一時的に停止する(ショート乾乳)およびプロバイオティクス投与により、乳汁中抗菌因子の濃度が上昇するかどうかを検討した。 まず、ショート乾乳を実施し定期的に乳汁を採取して、乳量、体細胞数(乳房炎の指標)、抗菌因子(ラクトペルオキシダーゼ活性、ラクトフェリン、カテリシジン-7)の濃度を測定した。その結果、ショート乾乳後に乳量は一時的に減少し、逆に体細胞数は増加した。抗菌因子であるラクトフェリン、カテリシジン-7の乳中濃度はショート乾乳後に有意に増加した。これらのことから、ショート乾乳することによって乳量が減少し、それによって抗菌因子の乳中濃度が増加すると考えられた。 また、プロバイオティクスとして、酵母を乳房に注入し、経時的に乳汁を採取して、抗菌因子の濃度を測定した。酵母投与24時間後に乳量が一時的に増加したが、体細胞数およびカテリシジン-7の濃度は有意には変化しなかった。したがって、酵母の投与は抗菌因子濃度には影響しないと思われた。 以上のように、ショート乾乳を実施することにより抗菌因子の乳中濃度を高めることが明らかとなり、この方法による乳房炎治療が可能と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プロバイオティクスを用いる方法およびショート乾乳法による試験を計画し、いずれも本年度中に終了できたため。
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今後の研究の推進方策 |
今後は今までの成果を融合して、さらに高い抗菌因子の濃度上昇を目指したプログラムの開発を目指す。今まで、エストロゲン投与およびショート乾乳を実施すると乳汁中抗菌因子濃度が上昇することが分かったので、これらを併用した治療プログラムを開発する。泌乳期にエストロゲンを5日間筋中に投与すると同時に3日間搾乳を完全に中止する(ショート乾乳)。搾乳を中止する3日間は少量だけ搾乳し、それ以外は毎日乳汁を完全に搾乳する。それらの乳汁の乳量、体細胞数および抗菌因子の濃度を測定する.さらに,実際に慢性の難治性乳房炎になった乳牛に対して本治療プログラムを実施する。すなわち,エストロゲン投与およびショート乾乳を実施し、上記の通り、乳汁を採取して、乳量、体細胞数、抗菌因子の解析に加えて,細菌培養検査も実施する.これらの結果から、本プログラムの有効性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
試験実施のための出費が予想より少なかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度予算と合算して、エストロゲン投与とショート乾乳を融合した試験を実施する。
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