乳房炎による被害は深刻であるが,予防・治療法が確立していないため発症率は低下していない.特に慢性乳房炎による被害が多く,これの防除は喫緊の課題である.乳腺内での抗菌因子の濃度を最大限にすることで細菌を一網打尽にする革新的な手法を開発するため,抗菌因子の発現機能に着目した処理法を検証してきた.平成27度にはエストロゲン投与により乳産生量を抑制し,乳中抗菌因子の濃度を上昇させることができることを発見した.平成28年度は、搾乳を3日間一時的に停止する(ショート乾乳)を実施した結果、乳量は一時的に減少したが、体細胞数や抗菌因子であるラクトフェリン、カテリシジンの乳中濃度は有意に増加した。これらのことから、ショート乾乳することによって抗菌因子の乳中濃度が増加すると考えられた。 平成29年度は、ショート乾乳実施時にエストロゲンを投与し、両者の効果を相乗的に獲得する方法を試みた。エストロゲンを投与した時、ショート乾乳後の搾乳再開後に乳量が非投与区と比較して有意に低くなり、搾乳再開後4日目の体細胞数(SCC)が非投与区と比較して有意に高くなった。また、乳中カテリシジンおよびIgA濃度はショート乾乳数日目において、ラクトフェリン濃度はショート乾乳中から搾乳再開後において非投与区と比較して有意に高くなった。 以上のことから、ショート乾乳中にエストロゲンを投与すると、搾乳再開後、ショート乾乳とエストロゲンの相乗効果によって、乳量がさらに減少することで抗菌因子濃度が相対的に上昇し、一時的な自然免疫機能の強化がさらに向上することが示唆された。 以上のように、ショート乾乳とエストロゲンを併用することにより抗菌因子の乳中濃度を高めることが明らかとなり、これによって,乳房炎の治療が効果的に実施できると期待できる。
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