研究課題/領域番号 |
15K07699
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
山田 知哉 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産研究部門飼養管理技術研究領域, 上級研究員 (80343987)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ウシ / 肥育 / 脂肪細胞 |
研究実績の概要 |
脂肪組織が成長する一連の過程は、アディポジェネシスと総称される。ヒトや実験動物では、新たな脂肪細胞が増殖分化するための組織環境を構築する「脂肪組織リモデリング」がアディポジェネシス制御のキーファクターであることが判明した。テロメアは、細胞分裂によりDNA複製が行われる度に短縮することから、テロメアが短いほど活発に細胞分裂が行われたことを示す指標となる。肥満のヒトと痩せたヒトの脂肪組織のテロメア長を測定した結果、肥満のヒト脂肪組織のテロメア長は痩せたヒトより短く、肥満のヒト脂肪組織内では細胞分裂が活発に行われていることが示されている。また、肥満のヒト皮下脂肪組織のテロメア長は、内臓脂肪組織より短いことが報告されている。そこで、脂肪蓄積部位の違いが、脂肪組織リモデリングにおける脂肪組織内での脂肪前駆細胞の増殖状態に及ぼす影響を明らかにするため、肥育牛脂肪組織におけるテロメア長を検討した。 供試牛として黒毛和種去勢肥育牛を用い、10ヶ月齢から30ヶ月齢時まで、乾草と市販配合飼料を自由採食させて飼養した。と畜時に、皮下および内臓の各脂肪組織を採取した。これら脂肪組織におけるテロメア長は、リアルタイムPCR法を用いて測定した。 その結果、肥育牛の皮下脂肪組織のテロメア長は、内臓脂肪組織より有意に短いことが判明した。肥満のヒトでも同様に、皮下脂肪組織のテロメア長が内臓脂肪組織より短いことから、皮下脂肪と内臓脂肪組織のテロメア長は、肥満のヒトと肥育牛で同様の傾向を示すと考えられた。ヒトや実験動物の脂肪前駆細胞を用いたin vitro試験の結果から、皮下脂肪前駆細胞と比較し、内臓脂肪前駆細胞は、分化能および増殖能が低いことが報告されている。従ってこれらの結果から、内臓脂肪組織の長いテロメア長は内臓脂肪前駆細胞の低い増殖能を反映している可能性が推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目標は順調に達成されている。現在までの研究によって、肥育牛における脂肪蓄積部位の違いが脂肪組織リモデリングに及ぼす影響について検討を行った結果、皮下脂肪と内臓脂肪においてテロメア長の長さが異なる事を見出した。これらの知見は、ウシ脂肪組織において、脂肪前駆細胞の増殖能が蓄積部位の違いによって異なっていることを示す重要な知見である。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度においては、栄養条件が脂肪組織リモデリングを介した肥育牛アディポジェネシス制御機構に及ぼす影響について検討を行う。黒毛和種去勢牛を用い、10ヶ月齢から30ヶ月齢までの肥育期間に、粗飼料多給区と濃厚飼料多給区に設定した肥育を行う。27年度と同様に、生理機能が大きく異なる各脂肪部位のサンプルを採取し、給与飼料条件の違いが脂肪組織リモデリング制御のキーファクターであるテロメア長やリモデリング制御因子の発現量を検討するとともに、脂肪組織の免疫染色等を実施し、脂肪組織リモデリングが脂肪組織構造に及ぼす影響を明らかにする。これらの検討から、脂肪蓄積部位の違いが脂肪組織リモデリングを介した肥育牛アディポジェネシス制御機構に及ぼす影響を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
繰越額127,605円は主に試薬等物品費の購入に係る研究費の効率的な使用によって発生した残額であり、次年度に請求する研究費とあわせて本研究計画遂行のために使用する。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究課題の遂行のため、次年度の研究費は平成27年度繰越額127,605円と合わせ、脂肪組織リモデリングがアディポジェネシスに及ぼす影響を明らかにするための組織学的並びに分子生物学的解析のための主に物品費等として交付申請時の計画通り使用する。
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