ウシ胎盤由来線維芽細胞、ウシ子宮上皮細胞、ウシ受精卵を用いて、インビトロ胎盤構造モデル(子宮上皮―胎盤の重層構造)の構築を試みた。前年に、2重底ディッシュ(トランズウェル)を用いて、子宮上皮細胞上に栄養膜細胞コロニーが形成されることを報告した。この系に胎盤剥離誘導シグナルと想定しているオキソアラキドン酸を内ウェルに添加したところ、栄養膜細胞コロニーより先に子宮上皮細胞が剥離し、コロニーは迅速に剥離しなかった。しかし、2重底ディッシュの外ウェルに添加するとコロニーの剥離が誘導された。細胞に極性が生まれたと考えられたが、上皮細胞と栄養膜細胞の分離は起こらなかった。 同じく前年に通常ディッシュの子宮上皮細胞シートに栄養膜細胞コロニーが形成する事を報告したが、胎盤由来線維芽細胞上にも栄養膜細胞コロニーが形成された。前者では栄養膜細胞下の子宮上皮細胞は駆逐されていたが、後者では線維芽細胞が存在しており、栄養膜細胞-繊維芽細胞の重層構造を形成していた。この系にオキソアラキドン酸を添加すると、5時間程度で栄養膜細胞の剥離が誘導され、その際下に線維芽細胞が保持されていた(=細胞間接着の分離)。さらに、剥離おいてMMPの活性化(蛍光染色コラーゲンの分解)とアポトーシスの誘導(核のYo-Pro-1染色、PI非染色)が観察された。ビボにおいても排出胎盤にアポトーシス染色像が観察されること、MMPの活性化も報告されている事から、オキソアラキドン酸が胎盤剥離誘導シグナルとして働くことを強く支持するデータと考えられた。 分娩誘起牛の胎盤剥離誘導に関しては、経産牛の場合初産牛と同じ条件では胎盤の剥離排出は起こらない。オキソアラキドン酸の代謝も異なっており、同量の注射でもピーク値は初産牛より低かった。またオキソアラキドン酸は数分で血中から代謝消失するが、連続注入した場合血中濃度がかなり上昇する事がわかった。
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