ウシ受精卵由来栄養膜細胞に対する12オキソアラキドン酸(12-KETE)(胎盤剥離シグナル候補物質)の作用を検討した。アポトーシスの指標であるDNAの断片化は12-KETEの添加で検出されたが、qPCR法で遺伝子発現をしらべたところ、アポトーシス関連遺伝子であるBaxのmRNAは減少していた。また対照遺伝子であるGAPDHも大きく減少していた。一方より低い濃度の12-KETE添加では栄養膜細胞コロニーのシート状剥離は起こらず、粒状に剥離浮遊が起きた。この際、MMPの活性は弱く(DQコラーゲンの分解が弱い)、またアポトース細胞(YoPro-1染色ポジ、PI染色ネガ)も少なかった。しかしこの反応はプロテアーゼ阻害剤(Pefabloc)で抑制された。この事実は、低濃度の12-KETEが栄養膜細胞のプロテアーゼを活性化する事を示しており、分娩時の胎盤剥離において新しい機構を提供するかもしれない。さらに12-KETEによる栄養膜細胞の剥離誘導はエストラジオール17βの添加で抑制された。この作用は分娩末期のエストロジェンが高い時期は胎盤剥離機構が働かないように抑制されている可能性を示した。 経産牛の胎盤剥離誘導条件は見つからなかった。これまで胎子の娩出後4時間を中心に検討してきたが、4~8時間に投与時期を変えても胎盤はでなかった。またシグナルの持続時間を長くする目的で12-KETEを1または2mgを1分おきに30回投与したが、これも効果がなかった。 これまでに胎盤剥離誘導に成功した初産牛の血中ハプトグロビン(炎症蛋白)を、自然分娩牛、自然胎盤停滞牛と比較したところ、胎盤が停滞した場合、胎盤が子宮内に残っている期間は血中ハプトグロビン濃度が高く維持されている事が示された。12-KETE投与で胎盤が迅速に排出されるとハプトグロビンの低下も早かった。
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