近年、ゲノムワイドのSNP情報を利用した選抜(ゲノム選抜)は、乳用牛を中心に実用化の方向に動いており、豚においても実用化に向けた研究が行われるようになってきた。ゲノム選抜には、ベイズ法を利用した方法とゲノム関係行列を利用する方法がある。いずれの方法も膨大なSNP情報を利用するため、演算などに制約がある。特に、個体数が10万頭以上になると、既存のコンピューターでは容量や演算時間に限界があり、継代記録を何反復も発生させて結果を得るモンテカルロ法によるコンピュータシミュレーションへの利用は困難である。 本研究では、まず種々の演算アルゴリズムの改良等、SNP情報を用いたゲノム関係行列の逆行列を算出するための効率的な演算手法と効率的な逆行列の作成アルゴリズムについて検討した。そこで、ガウスの消去法を分割法に応用した結果、演算時間は行列のランクによって異なるものの、最も効率的に演算できるポイント(行列のサイズ)のあることが明らかとなった。さらに、分割法による逆行列の算出法について詳細に検討した結果、対称行列や元の行列がメモリに入りきらないような密行列の場合に有効であることが明らかとなった。これらの特性はゲノム関係行列に当てはまることから、分割法を用いて逆行列を算出するプログラムの有効性が明らかとなった。 本年度は改良目標型選抜法のコンピュータシミュレーションを行うため、SNP情報を取り入れた遺伝的パラメーターを推定した。分析データは種雌豚約6万件の生存産子数の記録であり、そのうちSNP情報を持つ豚は2304頭であった。分析モデルは反復率アニマルモデルとした。ゲノム情報を取り入れた遺伝率は相加的血縁行列による遺伝率よりも低く推定されたため、シミュレーションには文献値を用いた。その結果、改良目標型選抜法においても、ゲノム情報の利用による選抜は効率的であることが示唆された。
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