研究課題/領域番号 |
15K07703
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
澤田 均 静岡大学, 農学部, 教授 (10183831)
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研究分担者 |
山下 雅幸 静岡大学, 農学部, 教授 (30252167)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 草地生態 / 外来生物 |
研究実績の概要 |
環境省の「生態系被害防止外来種リスト」の「産業管理外来種」に指定されている外来牧草2種(イタリアンライグラスとトールフェスク)を取り上げ、その逸出による被害状況及び被害可能性について、前年度に引き続き国内外の情報を広く収集、整理を進めた。これまでの成果を一部とりまとめ、草地学会(弘前市)の企画シンポジウムで発表した。静岡県内の半自然草地の植生を調べ、イタリアンライグラスの侵入による被害可能性について解析した。 エンドファイトと共生する外来牧草イタリアンライグラスの植食昆虫への影響を評価するために、エンマコオロギ幼虫を用いて室内にて摂食実験を行った。3種類の処理区(感染区、非感染区、混合区)を設けて、幼虫期におけるエンドファイト感染種子の長期的な摂食による生存率及び成長量、羽化への影響を調べた。感染種子を長期的に摂食することにより、羽化率が大幅に低下し、たとえ羽化しても小型になることを確認した。羽化個体の小型化により、雄成虫、雌成虫ともに繁殖活動が低下しうることが示唆された。 エンドファイト感染動態とエンドファイト・ロスについて、大量増殖した実験用種子を用いて、屋外にイタリアンライグラス実験集団を作出した。感染種子と非感染種子の初期頻度が種々の実験集団を設け、エンマコオロギを放飼し、感染率の推移を追跡することにより、エンドファイト感染動態を調べた。一方、野生化集団のエンドファイト感染率を低下させうる要因を探るため、感染種子に種々の温水処理を施し、ポット実験を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
主要な牧草2種(イタリアンライグラスとトールフェスク)の逸出による被害状況及び被害可能性については、国内外の情報を引き続き広く収集することができた。これまでの成果を一部とりまとめ、草地学会(弘前市)の企画シンポジウムで発表した。半自然草地は、外来牧草による被害が強く懸念される生態系である。そこで、保全的価値の高い静岡県内の半自然草地を対象に植生を調べ、イタリアンライグラスの侵入による被害可能性を解析した。これにより、知見の少ない国内の事例について、情報収集を進めることができた。 イタリアンライグラスの植食昆虫への影響評価については、エンマコオロギを用いて室内にて摂食実験を行った。当初の計画通り、3種類の処理区(感染区、非感染区、混合区)を設け、十分な個体数の幼虫を用いて、幼虫期におけるエンドファイト感染種子の長期的な摂食による生存率及び成長量への影響を調べた。さらに、羽化率、羽化時の体重、羽化までの日数、羽化個体の性比への影響も調べた。幼虫期に感染種子を長期的に摂食することにより、羽化率が低下すること、たとえ羽化しても小型になることを確認した。 エンドファイト感染動態とエンドファイト・ロスについては、屋外にイタリアンライグラス実験集団を作出し、エンドファイト感染動態を調べた。屋外実験を2回、実施することができた。一方、野生化集団のエンドファイト感染率を低下させうる要因を探るため、感染種子に種々の温水処理を施し、ポット実験を行った。
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今後の研究の推進方策 |
外来牧草の逸出による被害状況及び被害可能性については、主要な牧草2種(イタリアンライグラスとトールフェスク)の逸出による被害状況及び被害可能性について、引き続き国内外の情報を収集・整理する計画である。さらに、懸念される被害可能性を把握するために、これら2草種と類似した生物学的特性を有する草種についても、可能な限り、最新情報の収集に努める。 イタリアンライグラス野生化集団の植食昆虫への影響については、前年度に引き続き、エンマコオロギを用いて室内にて摂食実験を行う。エンドファイト感染種子だけでなく、感染実生の摂食についても調べる計画である。さらに、草種間のエンマコオロギの選好性の様相と、エンマコオロギ他個体または捕食者の存在に対する、エンマコオロギの選好性シフトの有無について調べる計画である。 エンドファイト感染動態とエンドファイト・ロスについては、イタリアンライグラス実験集団にエンマコオロギを放飼し、引き続きエンドファイト感染個体率の推移を追跡する。さらに、イタリアンライグラス野生化集団の発芽特性を考慮し、順次発芽を模した実験集団を作出し、エンドファイト感染動態を調べる計画である。 一方、野生化集団のエンドファイト感染率を低下させうる要因を探るため、前年度に引き続きポット実験を行い、次世代への垂直伝播効率を調べる。冠水直後の高温を模した、感染種子への温水処理や、草刈り管理を模した刈取処理によって、エンドファイト・ロスが起こるかどうかを調べる計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主な理由は、旅費の実支出額が当初予定額を下回ったためである。これは、幼虫期における長期的な摂食による影響を調べる室内実験と、エンドファイト感染動態を調べる屋外実験、エンドファイト・ロスを調べるポット実験に予想以上に労力がかかり、これらを優先したことによる。そのため、イタリアンライグラス野生化集団の現地調査及び学会参加を最小限にとどめた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の物品費に加え、早期に使用する計画である。
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