研究課題/領域番号 |
15K07704
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大森 保成 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (60152261)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | トリインフルエンザ / 感染防止 / 家禽 / ニワトリ / 系統差 / 野生動物 / スクリーニング |
研究実績の概要 |
トリインフルエンザウイルスとヒトインフルエンザウイルスはそれぞれ細胞膜上に存在するシアル酸α2-3ガラクトースとシアル酸α2-6ガラクトースを受容体として特異的に結合することで宿主細胞に侵入し、感染する。本研究ではそれぞれの受容体に特異的に結合するレクチンを用いて、様々な系統のニワトリおよび鶏舎の周囲に生息する野生動物において呼吸器系と消化管で受容体の分布を調べた。 鳥類バイオサイエンス研究センターで維持しているニワトリ14系統を調べた結果、トリインフルエンザウイルス受容体については、呼吸器系、消化管ともに分布と密度に大きな差が見られた。呼吸器系においてレクチン反応が弱く、受容体が少ないと考えられる系統はGSN/1、OS、ダンダラウィーであった。また、消化管においてレクチン反応が弱く、受容体が少ないと考えられるのはBL-E、プチコッコであった。呼吸器系と消化管でともに受容体が少ない系統はOSとプチコッコであった。野生動物としてスズメ、ドバト、キジバト、ヒヨドリ、クマネズミ、アカネズミを用いた。ヒヨドリ、キジバト、アカネズミの呼吸器系と、スズメ、キジバトの消化管で比較的強い反応が見られた。 今回の結果から、ニワトリの様々な系統間でトリインフルエンザウイルス受容体の分布が大きく異なることが明確になり、トリインフルエンザに感染しにくい系統を特定できる可能性が示唆された。また、今回用いた野生動物の中でスズメ、ヒヨドリ、キジバト、アカネズミが高病原性トリインフルエンザウイルスを畜舎内に持ち込む可能性が高いと考えられる。一方、BM-Cとキジバトの呼吸器系、スズメの消化管はトリとヒトの両方の受容体を持っているので、トリとヒトのインフルエンザウイルスに同時に感染すると、同一細胞内でウイルスの遺伝子が混ざり合い、新型インフルエンザウイルスの発生源になるおそれがある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鳥類バイオサイエンス研究センターで系統保存しているニワトリ系統のうち、高度近交化系、長期閉鎖系を含む14系統を用いて呼吸器系と消化管におけるトリインフルエンザウイルス受容体の分布を明らかにできた。その結果、ニワトリの系統により受容体の分布が大きく異なり、トリインフルエンザに感染しにくい系統を特定できる可能性が明らかになった。また、鶏舎周囲に生息する野生動物ではヒヨドリ、キジバト、アカネズミの呼吸器系と、スズメ、キジバトの消化管で比較的強い反応が見られることを明らかにできた。このように、レクチンを用いてトリインフルエンザウイルス受容体の分布をスクリーニングする手法が確立され、今後の研究の推進にめどがついた。
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今後の研究の推進方策 |
鳥類バイオサイエンス研究センターで系統保存しているニワトリ系統のうち、残っているニワトリ18系統とまだ研究に着手していないウズラ18系統について同様にレクチン染色を行い、トリインフルエンザウイルス受容体の分布を明らかにする。ニワトリとウズラの各系統の中で、トリインフルエンザウイルス受容体の少ない系統を特定し、トリインフルエンザに抵抗性を示す系統の確立に役立てる。 ニワトリやウズラを灌流固定し、パラフィン切片を作製してからレクチンの染色性を調べる方法では時間も手間もかかる。また、動物を殺してから材料を採取するのでトリインフルエンザウイルスに対する受容体が少ないことが判明しても、その個体はその後の交配実験に使用することができない。そこで、簡易スクリーニングの方法を確立する。呼吸器系はニワトリやウズラを保定して口を開き、綿棒を喉頭口から気管内に入れ、粘膜上皮細胞を擦り取る。一方、消化管はクロアカから直腸の粘膜を擦り取る。これをスライドグラスに塗り、塗末標本を作製してレクチン染色をする。この方法でトリとヒトのインフルエンザウイルス受容体の存在を証明できるようになれば、ニワトリやウズラを殺すことなくその個体が持つ受容体の存否や量を知ることができる。この技術は今後、トリインフルエンザに抵抗性を示す新規系統を育種学的に作出する際に不可欠である。 畜舎周囲に生息する野生動物をさらに捕獲し、レクチン染色をする。トリインフルエンザウイルスの受容体を多く持つものがあれば、ウイルスを野外から畜舎内に持ち込む可能性が高い。 得られた研究結果は畜産学会、獣医学会、家禽学会などの学術集会で講演発表をし、原著論文にまとめて学術雑誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、①最初、レクチン染色がうまく染まらなくてスクリーニングの出足が遅れたのと、実験に必要な消耗品を節約したので、物品費が予算額よりも少なくなったためと、②2回の学会発表を予定していたが、都合により1回しか発表できなかったので旅費が予算額よりも少なくなったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
レクチンを用いたスクリーニングが順調に進むことがわかったので、今後は物品費として使用します。学会発表もデータがそろってきたので、回数を増やして行い、旅費の使用を増やします。
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