研究課題/領域番号 |
15K07708
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
小笠原 英毅 北里大学, 獣医学部, 助教 (30535472)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 脂肪滴含有筋線維 / 放牧 / 日本短角種 / 組織・細胞 / 筋線維型 |
研究実績の概要 |
本研究は放牧飼養により増加する脂肪滴含有筋線維の脂肪滴蓄積機構に焦点をあて、骨格筋形成機構(赤肉産生機構)の詳細を明らかにすることを目的とした。日本短角種去勢雄を用いて、試験区を肥育前期(約18ヶ月齢)の牛群で設定し、放牧期の5月末から10月末まで放牧区と舎飼区に分け、実験を計画した。給与飼料は放牧区は放牧草、舎飼区は毎朝、放牧草を刈り取り、飽食給与とした。また、放牧開始前(5月)、放牧中期(8月)に大腿二頭筋を採取し、筋分化関連因子(myostatin、myogenin、MyoD、ActRⅡB)の mRNAの発現変動を解析した。筋線維型(Ⅰ型、ⅠD型、ⅡA型、ⅡX型)および脂肪滴含有筋線維の構成割合を組織化学的に解析した。 放牧開始前、中期で大腿二頭筋の筋線維型構成割合を算出したところ、中期の放牧区では脂肪酸代謝を主とするⅠおよびⅠD型筋線維が有意に増加し、脂肪滴蓄積筋線維も有意に増加した。また、脂肪滴を含有する筋線維は中期の放牧区でⅠD型に80%、Ⅰ型に15%、ⅡA型に5%存在した。全期間の舎飼区および試験開始前の放牧区では脂肪滴含有するⅡA型筋線維は存在せず、ⅡA型での脂肪滴含有は放牧飼養の影響と考えられた。また、各筋線維型および脂肪滴含有筋線維の短径を計測したところ、舎飼区では時期による差がなく、放牧区では中期で有意に増加した。筋分化(筋肥大)に関わるmyostatin、myogenin、MyoD、ActRⅡBのmRNA発現では、両区とも時期による変動がなく、脂肪酸取り込みに関わるCD36 mRNAの発現が中期の放牧区で増加した。 以上より、肥育前期の日本短角種においても放牧飼養で脂肪滴を蓄積する筋線維が増加すること、筋線維への脂肪滴蓄積により筋肥大が促進されることが明らかとなった。また、この脂肪滴蓄積機構には筋分化関連因子が関与しない可能性も示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の具体的目的である肥育前期の日本短角種骨格筋組織における放牧飼養の筋形成因子(myostatin、MyoD、myogenin)が筋線維内脂肪滴蓄積機構に与える影響の発現解析を行った。また、一昨年度に採取した放牧飼養および舎飼飼養の培養骨格筋細胞の筋管分化能も解析しており、採取条件の違いが筋分化能に与える影響を解析することで放牧飼養が赤身肉形成過程に与える影響も明らかにできる。平成29年度にウシ筋芽培養細胞の詳細な解析を行うのみであることから②の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果のin vivoで認められる筋分化関連因子の作用と脂肪滴蓄積機構をin vitroの実験系で確認するために、すでに確立されているウシ筋芽細胞培養系を用いて、以下の実験を行う。生体内では筋分化関連因子が脂肪滴蓄積機構に関与していない可能性が示唆されたが、脂肪滴蓄積とは別機構で筋分化は行われるため、培養筋芽細胞を用いて筋分化関連因子の発現機序を解析する。培養筋芽細胞を放牧飼養状態に近づけるため放牧飼養時に採取した血清刺激を行い、ミオスタチンなど筋形成因子の発現変化、筋管融合割合を解析する。筋芽細胞からの筋管形成の各分化ステージで、血清刺激を行い、濃度および時間依存的に筋形成因子の発現量をリアルタイムPCR法と免疫細胞化学的手法を用いて解析する。また、筋管細胞に分化させた細胞集団にも同様な刺激を行い、組織学的手法(オイルレッドO染色)ならびに生化学的手法(細胞内トリグリセライド含量の測定)により筋線維内脂肪滴蓄積機構の詳細を明らかにする。昨年度の生体内での筋分化関連因子と筋線維内への脂肪滴蓄積機構との関与の再現性を確認するため、夏期、放牧区および舎飼区に分けた試験区を設定し、バイオプシー法により大腿二頭筋を採取し、昨年度と同様の解析を行う。 以上より、放牧飼養が骨格筋の各分化段階で筋形成に与える影響の詳細と放牧飼養で増強する筋線維内脂肪滴蓄積機構が明らかとなる。
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次年度使用額が生じた理由 |
筋線維型構成割合の解析に必要な試薬を実際に使用する時期に合わせて購入したいため。
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次年度使用額の使用計画 |
筋線維型構成割合の解析に必要な試薬の購入に使用する。
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