本研究では、腸内細菌叢の構成異常が肥満や生活習慣病に加え、慢性炎症や老化の進展に繋がるであろうとの仮説を立て、そのメカニズムを明らかにするとともに、特徴的な性質を有するビフィズス菌や乳酸菌による病態発症の予防効果を評価することを目的とした。 2015年度においては、硫酸化ムチン付着性のビフィズス菌や多糖産生性乳酸菌が、高脂肪食給餌による食餌性肥満モデルマウスの腸管バリア機能改善効果や内臓脂肪蓄積に伴う脂肪組織の炎症を抑止することが示唆された。また、その効果には、投与した両菌株が腸管バリア機能低下に寄与していると推察されている腸内細菌の増加あるいは低下が関与しているものと推察された 2016年度においては、供試菌株による腸管バリア機能低下の抑制機構を明らかにするため、高脂肪食により腸内で増加するコール酸(CA)を投与することで腸管バリア機能低下モデルマウスを作製することを立案しこれを達成した。一方で、作製されたマウスでは顕著な炎症の誘導が起こらなかった。 そこで2017年度においては、CA投与が腸管バリア機能、腸内細菌叢および炎症発症へ及ぼす影響を再評価するため、抗生物質を投与する群を加えて実験を行った。その結果、Lachnospiraceae、Oscillibacterの増加やAkkermansia、Lactobacillusの減少などの腸内細菌叢の変化や小腸中部におけるClaudin-2の増加が腸管透過性の亢進に寄与していることが強く示唆された。一方、CA投与は肝臓と腎臓の炎症を惹起したが、この炎症には腸内細菌が関与していないことが示唆された。さらに乳酸菌は腸管バリア機能の低下を抑制することが示された。 以上から、高脂肪食に摂取により、炎症発症との関連性は明確にできなかったが、一部の腸内細菌叢の構成が乱れることで腸管バリア機能が低下することが明らかになった。
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