ウシ乳腺は乾乳期に退行し、再構築されると考えられているが、そのメカニズムについては未だに不明な部分が多い。本研究では、ウシ乳腺組織で乾乳期特異的に発現する遺伝子を探索・同定するとともに、ウシ乳腺組織を構成する細胞の相互作用を明らかにすることを目的とした。本年度は以下の成果が得られた。
1)申請者らはこれまでに、乾乳期のウシ乳腺においてBMPタンパク質、BMP受容体の発現が増加することを明らかにした。本研究において乳腺の退行に伴ってラクトフェリンの分泌量が増加することを見出した。そこで、ラクトフェリンがBMPのmRNA発現に及ぼす影響を調べた結果、ラクトフェリン処理により乳腺上皮細胞におけるBMP2およびBMP4のmRNA発現が増加した。さらに、BMP4が乳腺上皮細胞におけるbeta-caseinの発現を抑制したことから、BMPが乾乳期におけるウシ乳腺の退行・再構築に関与することが示唆された。 2)マイクロアレイ法により泌乳中期と乾乳期の乳腺組織で発現する遺伝子を比較し、発現が変動する因子を抽出した。その中から細胞外に分泌される因子に着目し、リアルタイムPCR法によってそれらの発現変動を確認した結果、乾乳期におけるCXCL13およびCXCL9の発現は泌乳中期の約4倍であった。一方、乳タンパク質であるalpha-lactalbuminの発現は、乳合成活性に伴って増加し、泌乳中期に乾乳期の約30倍に達した。 3)乳腺上皮細胞、乳腺線維芽細胞をコラーゲンゲル中で共培養し、細胞塊の形成を観察したところ、乳腺上皮細胞単独での培養と比較して両細胞の共培養では、細胞塊が大きくなり、長時間持続することが観察された。 4)血液中に漏出するalpha-lactalbuminが、ウシ乳腺の退行・再構築を推定するマーカーの候補となることを示した。
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