研究課題/領域番号 |
15K07714
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
谷口 雅章 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産研究部門 家畜育種繁殖研究領域, 研究員 (60531431)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 遺伝子発現調節 / 脂肪細胞分化 / バイオマーカー / ブタ / マイクロRNA |
研究実績の概要 |
豚肉の赤身肉と霜降り肉の違いの指標となる分子マーカーとしてマイクロRNAの探索を目的とした。近年、マイクロRNAは遺伝子の発現量を調節することにより、細胞の増殖、分化、生合成ならびに代謝制御等に影響すること、また組織の種類や年齢などによって異なる発現様式を示すことなどが明らかとなってきた。食肉を構成するブタの筋肉および脂肪組織の発達における遺伝子発現の制御にマイクロRNAが影響する可能性がある。 そこで、赤身肉タイプおよび霜降り肉タイプの豚肉の間で、筋肉組織で発現するマイクロRNAおよび血中のマイクロRNAに差異がみられるかを検討することとした。またマイクロRNAにより発現調節を受ける標的候補遺伝子を推定することができるが、本研究では、実験により遺伝子発現量を検討することでマイクロRNAと遺伝子発現量との関係を明らかにする。この結果に基づき、赤身肉および霜降り肉の形成過程において、筋肉組織中で発現する遺伝子が調節される機構を明らかにする。 遺伝的に赤身肉タイプまたは霜降り肉タイプの豚肉を生産することが知られている2系統のデュロック種種雄豚に由来する交雑豚の枝肉から、筋肉組織ならびに血液を採取する。そこから抽出したRNAを用いて、筋肉組織の発達に関わるマイクロRNAを同定する。その際、ブタの全マイクロRNAを網羅するアレイ解析を行う。さらにメッセンジャーRNAを網羅的に解析することができる発現遺伝子アレイ解析も行うことにより、マイクロRNAの標的候補遺伝子の発現変動についても検討する。マイクロRNAおよび発現変動遺伝子が、デュロック種2系統間の遺伝的な差異を反映するか検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究目標として、霜降りタイプの枝肉と赤身肉タイプの枝肉、それぞれ16頭、合計32頭の枝肉から採取した筋肉組織を用いて、発現遺伝子アレイを用いた網羅的な遺伝子発現量解析を行うこととした。赤身肉タイプおよび霜降り肉タイプの豚枝肉は去勢雄および雌から、それぞれ8頭ずつ採材した。 昨年度までに血清および筋肉組織を用いたマイクロRNAアレイ解析により、赤身肉タイプと霜降り肉タイプ間で発現量差のあるマイクロRNAが、血清で2種類、筋肉組織で4種類同定された。これらマイクロRNAの標的候補遺伝子を検索したところ、150から850種類の機能遺伝子が該当することが示唆された。 今年度は、筋肉組織を対象とした発現遺伝子アレイを行い、7種類の遺伝子を同定した。これら遺伝子はすべて、赤身肉タイプが霜降り肉タイプよりも発現量が高かった。そのうち1種類の遺伝子に関しては、昨年度まで霜降り肉タイプの筋肉組織で発現量が高かったマイクロRNAの標的候補遺伝子と一致した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに筋肉組織で同定した4種類のマイクロRNAの標的候補遺伝子は、それぞれについて数百種類が存在しうることが推定された。しかし実際には、ブタの肥育期間中の筋肉組織において、各マイクロRNAの影響を受ける発現遺伝子の主要なものは数種類から数十種類に限られると推測される。そのため、ブタ筋肉組織の発現遺伝子(mRNA)に対応するアレイ解析を行うことで、霜降り肉および赤身肉タイプのブタ枝肉間で発現量の異なる遺伝子を同定した。この結果と、すでに同定した4種類のマイクロRNAの標的候補遺伝子のうち一致するものを抽出することにより、マイクロRNAと標的遺伝子の発現量変動との関連性を検証する。さらに、発現遺伝子の機能情報から肉質形質(筋肉内脂肪含量)との関連性を検討する。これらを明らかにすることにより、ブタの肉質形質と関連する遺伝子発現ネットワークにおいて、同定したマイクロRNAが調節的な役割をもつかどうかを検討することができると考えられる。ただし、これまでに得た結果から、ブタ屠畜時の放血液から得た血清中のマイクロRNAは2種類のみで、推定される標的遺伝子と筋肉組織で実施した発現遺伝子アレイの結果において、一致した機能遺伝子は同定されていない。 そのため、今後のブタの肉質に関与する血清中マイクロRNAのバイオマーカー化においては、肥育期間中の採決による血清サンプルを用いた検討を行うなど、工夫が必要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
遺伝子発現量解析に用いる試薬類の納品時の価格が、購入前の予想価格を下回ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
遺伝子発現量解析に用いる試薬類に充当する。
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