研究課題
本研究では家畜の生産性を低減させる要因の一つである下痢症について、これまで明らかになっていない新規ウイルスの探索やウイルスコミュニティーの解明を目的に、次世代シークエンサーを用いたメタゲノム解析を行っている。1年目である平成27年度は、牛および豚の下利便および正常便を茨城県、栃木県、石川県、鳥取県および鹿児島県から収集し、それぞれから核酸を抽出して次世代シークエンスを実施した。また、下痢症例から検出されたウシトロウイルスおよび牛ウイルス性下痢ウイルスの全長解析を次世代シークエンサーにより実施した。豚の糞便から新規のピコルナウイルス(Prcine picornavirus Japantと命名)を検出した。得られたウイルス遺伝子のリード数は十分であったが、ウイルス遺伝子全長が得られたのは1株だけであったため、本ウイルスは宿主由来なのか、食物に混在している通過ウイルスなのかを見極める必要があり、ウイルス検出系を開発し浸潤状況を調べたところ、わが国の豚に浸潤していることが判明し、豚を宿主とするウイルスであると考えられた。下痢症との関連については、今後例数を増やしてさらに検討する必要がある。ウシトロウイルスおよび牛ウイルス性下痢ウイルスの遺伝子全長解析から、わが国のウシトロウイルスはブタトロウイルスとの遺伝子組み換えを有するウイルスであることが判明し、希少な血清型を示す2株の牛ウイルス性下痢ウイルスは、わが国、中国および韓国にしか存在しない、東アジア特有の種であることが明らかとなった。組み換えを起こしながら進化するウイルスや地域に限定して浸潤しているウイルスの実体が明らかになり、下痢症の原因ウイルスの分子疫学的解明を行う上で重要な知見を得ることができた。
2: おおむね順調に進展している
新規ウイルスの発見やウイルスコミュニティーの解明は、まだ実施していないサンプルもあり若干遅れているが、次年度に予定されていた新規ウイルスの検出法の開発は、宿主ウイルスか通過ウイルスかを見極める上で必要であったので、前倒しして行った。新規ウイルスの発見やウイルス遺伝子の新規情報が得られたことで研究は順調に進捗していると考えている。
今後新規ウイルスが発見された場合、報告を急ぐ必要があることから、ウイルス検出法の開発を即時に行う方針に変更し、野外調査も同時に進行させる。これまで既知ウイルスの遺伝子が多く発見されており、現在それぞれのウイルスで個々に解析を進めているが、それをとりまとめた後に、全体像として下痢症とウイルスコミュニティーの関係を解析していく。今後も新しい知見が多く得られるものと考えている。
豚からの新規ウイルスであるPorcine picornavirus Japanの遺伝子全長を決定するため、RACE法の実施を計画していたが、早期に発表することを優先したため、RACE法に関するプライマーの発注を次年度に見送ったため残額が生じた。
プライマーの発注を次年度に行って、この残額を消化する。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 3件)
Genome announcements
巻: 18 ページ: 1
10.1128/genomeA.01744-15.
Infection, genetics and evolution
巻: 38 ページ: 90-95
10.1016/j.meegid.2015.12.013. Epub 2015 Dec 18
Archives of virology
巻: in press ページ: in press
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