本年度は肉用牛に対して以下の検討を行った。平成27年度の検査でと畜場から入手した332血清検体のうち、ELISA検査でトキソカラ属回虫感染疑いとなった33検体について、ヒトの確定診断に用いられる犬回虫分泌排泄抗原を用いたWestern Blot検査を行った。その結果、32検体で陽性を示唆するバンドが得られ、トキソカラ属回虫の感染の可能性がより濃厚となった。これに加え、nested multiplex PCR法による豚回虫、犬回虫、猫回虫DNAの検出法を開発し、食肉衛生検査で検出された牛の肝臓の白斑病変部位17検体について検査を行ったが、すべて陰性であった。肝臓の白斑病変は回虫感染の特長であることから、サンプル数を増やして検討を継続することが望ましいと考えられた。 一方、鶏については、平成28年度に行った豚回虫の1回、2回、繰り返し感染群から得た血清抗体の豚回虫抗原に対するavidity評価を実施した。各群とも感染後継時的にavidityが上昇したことから、抗体のavidity評価により、感染後の期間を推測できると考えられた。さらに、本年度は、豚回虫の1回、2回感染群と非感染群の3群を設けて、抗体価の上昇の推移を長期間観察した。鶏の血清を豚回虫分泌排泄抗原ELISAで評価したところ、抗体価は1回感染群では感染2~4週後をピークに低下し、感染後14週後には非感染群のレベルまで低下した。2回感染群では再感染後に2次応答による高い抗体価の上昇が認められたが、再感染2週後をピークに低下し、再感染10週後には非感染群のレベルまで低下した。したがって、1~2回感染では抗体価が短期間しか維持されず、これは豚回虫の鶏体内での移行動態、すなわち豚回虫幼虫は鶏体内では留まらず、感染した幼虫は気管型移行を行って短期間で排泄されている可能性が示唆された。
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