イヌ皮膚由来線維芽細胞における炎症制御に対するセラミド代謝物の効果について,特にセラミド1リン酸について検討を行ったが,明確な効果を得ることができなかった。そこで,モデルを関節炎に移し,まずイヌの滑膜由来線維芽細胞の初代培養系を確立し,炎症性サイトカインである腫瘍壊死因子α (TNF-α) 刺激による炎症に関わる別のサイトカインであるインターロイキン8 (IL-8) 産生について検討した。イヌ滑膜由来線維芽細胞において,TNF-α刺激は用量依存的および時間依存的なIL-8 のmRNA発現とタンパク質放出を引き起こした。MAPキナーゼについての検討では,細胞外シグナル制御キナーゼ (ERK) およびc-Jun-N末端キナーゼ (JNK) 阻害剤はTNF-α誘導性IL-8 mRNA発現およびタンパク質放出を阻害した。TNF-α 刺激は,時間依存的にERKおよびJNKのリン酸化を促進し,さらに,TNF-α誘導性のERKおよびJNKのリン酸化はそれぞれの阻害剤により抑制された。siRNA導入によるERKおよびJNKのサブタイプについての検討では,ERK1ノックダウンは効果がなかったが,ERK2ノックダウン細胞においてのみTNF-α誘導性IL-8 mRNA発現が抑制された。一方,JNKについては,JNK2ノックダウンでは効果がなかったが,JNK1ノックダウン細胞においてのみTNF-α誘導性IL-8 mRNA発現が抑制された。クロストークの検討も行ったが,ERK2ノックダウンはTNF-α誘導性JNK1のリン酸化に影響せず,また,JNK1ノックダウンはTNF-α誘導性ERK2のリン酸化に影響しなかった。以上の結果より,イヌ滑膜由来線維芽細胞においてTNF-α刺激は,ERK2およびJNK1経路を独立して活性化し,その下流のIL-8発現を促進して放出を起こすことが明らかとなった。
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