ウシの黄色ブドウ球菌性乳房炎は慢性化しやすく、慢性化した場合は難治性の乳房炎となるため、酪農経営に被害を与える重要な問題の一つである。本課題では黄色ブドウ球菌性乳房炎の慢性化に関わることが示唆されているケモカイン CXCL8 および好中球エラスターゼについて、それらの持続的な放出が起きるメカニズムの解明を目指した研究を行ってきた。 昨年度までの結果からウシ乳腺上皮細胞における CXCL8 の発現誘導にはリポテイコ酸(LTA)等の黄色ブドウ球菌由来因子が強く関与し、ラクトフェリンのエラスターゼ分解産物である催炎性ラクトフェリン由来ペプチド(LDP)も部分的に関与することが示唆された。本年度は LDP によるウシ乳腺上皮細胞における CXCL8 発現誘導メカニズムを解明するために、LDP が結合するウシ乳腺上皮細胞のタンパク質を探索する試験を行った。 FLAG 配列をアミノ末端側に付加した LDP を合成した(FLAG-LDP)。90-95% コンフルエントのウシ乳腺上皮細胞を FLAG-LDP (100μg/ml)、0.1% (w/v) ウシ血清アルブミンおよび架橋材 bis [sulfosuccinimidyl] suberate (5 mM) を含むリン酸緩衝生理食塩水と氷上で2時間反応させた。細胞を十分に洗浄した後、ウシ乳腺上皮細胞溶解液タンパク質を調整し、抗FLAG単クローン抗体を用いたウェスタンブロット法により、FLAG-LDP が結合したバンドを検出した。結果、LDP 受容体候補として 74 kDa および 29 kDa の位置に FLAG-LDP が架橋されたバンドが得られた。しかし未だこれらのタンパク質の同定には到っていない。
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