研究課題/領域番号 |
15K07732
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
梅村 隆志 国立医薬品食品衛生研究所, 病理部, 室長 (50185071)
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研究分担者 |
高須 伸二 国立医薬品食品衛生研究所, 病理部, 主任研究官 (00597891)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 転写因子Nrf2 / 肝再生 / 肝細胞腫瘍 |
研究実績の概要 |
本研究は、肝細胞の再生結節内におけるNrf2 遺伝子発現の有無が結節内の腫瘍発現頻度に影響を与えた事実に着目し、Nrf2 ホモ欠損並びにその野生型マウスに結節性肝再生モデルまたは部分肝切除モデルを適用し、肝再生プログラミング破綻に係るNrf2 の関与の詳細を明らかにする。結節性肝再生モデルを用いた検討では、昨年度までに慢性肝障害を引き金とする結節性再生性肝細胞過形成(NRH)の生物学的特徴を明らかにする目的で、野生型マウスにおけるピペロニルブトキサイド誘発NRHおよび肝細胞腫瘍(HCA)の網羅的遺伝子発現解析を実施し、両病変は異なる分子生物学的特徴を示すことを明らかにした。本年度は、慢性肝障害を引き金とした肝再生と肝再生プログラミング破綻に係るNrf2の役割を明らかにする目的で、Nrf2 ホモ欠損マウスに生じたNRHの網羅的遺伝子発現解析を実施するためのレーザーマイクロダイセクションによる試料採取を行った。部分肝切除モデルを用いた検討では、昨年度までに部分肝切除後に生じる急性的な増殖刺激の誘導から収束に至る過程において、Nrf2は収束させる時期に関与することを明らかにした。本年度、肝障害パラメーターの変動を検討した結果、血清中AST及びALT上昇のピーク時間並びにその程度に遺伝子型間で顕著な差が認められなかった。従って、Nrf2は急性的な細胞増殖の制御に直接的に関与している可能性が考えられた。そこで、Nrf2の細胞増殖収束期での作用点を明らかにする目的で、Snail/GSK-3b経路の発現変動を検討した結果、遺伝子型間で顕著な差は認められなかった。しかし、報告されているGSK-3bの明確な経時的変化が確認できなかったことから、Snail/GSK-3b経路のさらなる検討とそれ以外のシグナル経路を検討する必要があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
結節性肝再生モデルを用いた検討では、Nrf2ホモ欠損並びに野生型マウスにピペロニルブトキサイドを投与し、野生型マウスにおいて認められたNRH及びHCAの網羅的遺伝子発現解析を実施した。その結果、それぞれの特徴的な遺伝子発現プロファイルが明らかとなり、両者は分子病理学的に異なる病変であることが示された。これらの結果は、当初の研究目的の一つである持続的な増殖刺激による肝再生プログラムの詳細と、その破綻から腫瘍性形質獲得に至る機序の解明に寄与するものである。部分肝切除モデルを用いた検討では、Nrf2が急性的な細胞増殖の制御に関与し、特に細胞増殖を収束する時期に関わっている可能性を明らかにした。細胞障害の程度に遺伝子型間で差が認められなかったことから、Nrf2が部分肝切除後の急性的な細胞増殖を直接的に制御している可能性が考えられた。肝再生過程における細胞増殖のON/OFF に係る新たな概念として注目されているSnail/GSK-3b経路の発現変動を検討した結果、遺伝子型間では顕著な差は認められなかった。しかし、これまでに報告されているGSK-3bの明確な経時的変化が確認できなかったことから、Snail/GSK-3b経路へのNrf2の関与については引き続き検討すると共に、細胞増殖を制御することが知られているその他の経路も合わせて検討する必要があると考えられた。これらの結果は、細胞増殖シグナルのON/OFF が短期間で完結する肝再生の制御にNrf2が関与している可能性を示していると共に、持続的な増殖刺激による肝再生プログラムを部分肝切除モデルにおける肝再生機序と比較することにより明らかにするという当初の研究目的に資するものである。以上より、当初計画していた研究目的に対して、一部課題はあるもののおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、野生型マウスにピペロニルブトキサイドを持続的に投与した際に認められるNRHとHCAは、その形態学的特徴と一致して細胞周期に関わる遺伝子群は共通に変動しているものの、それ以外の遺伝子発現プロファイルが異なっていることを明らかにした。この結果は、肝再生プログラミングの破綻していないNRHとそれが破綻した腫瘍間における差異を示しているものであることから、これらの遺伝子プロファイルの詳細な解析により、肝再生プログラミングの破綻に係る責任遺伝子の同定が期待される。今後、腫瘍へと進展しやすい環境を有していると考えられるNrf2ホモ欠損マウスに認められたNRHに関しても同様に網羅的遺伝子発現解析を行い、野生型のNRHと比較することで再生肝細胞が腫瘍性形質を獲得するに至る過程におけるNrf2の役割を明らかにする。また、部分肝切除モデルを用いた検討ではこれまでに、Nrf2は再生肝細胞の細胞増殖を収束させる時期に直接的に関与することを明らかにした。しかし、Nrf2の作用点を分子レベルで検討した結果、Snail/GSK-3b経路に関して遺伝子型間で差が認められず、すでに報告のあった明確な経時変化が確認できなかった。これらのことから、今後はSnail/GSK-3bのさらなる解析に加えて、その他のシグナル経路も対象に検討する。具体的には、部分肝切除後の肝再生の誘導に関わることが知られているHGF、IL-6および胆汁酸経路の関与をそれぞれc-Met、STAT3のリン酸化およびTGR5、Foxm1b等の発現を指標にして検討する。以上の解析から、部分肝切除後再生過程におけるNrf2 の意義と作用点を明らかにして、急性刺激並びに慢性刺激により生じる肝再生過程におけるNrf2の役割、さらにその欠損により生じる再生過程の破綻と腫瘍化への促進の分子メカニズムを解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度中に購入する予定であった一部の実験用試薬について、段階的な実験計画に合せて購入後の保存期間を一定にするため、次年度に購入することとしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
実験用試薬の購入費に充てる。
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