本研究は、再生肝細胞におけるNrf2 遺伝子発現の有無が腫瘍性形質の獲得に影響を与えた事実に着目し、肝再生プログラミングの破綻に係るNrf2 の関与の詳細を明らかにすることを目的とした。Nrf2 欠損並びに野生型マウスを用いて、持続性増殖シグナル解析の為の結節性肝再生モデル及び急性増殖シグナル解析の為の部分肝切除モデルの2つの肝再生モデルを通じて検討した。結節性肝再生モデルでは、野生型マウスにおけるピペロニルブトキサイド誘発結節性再生性肝細胞過形成(NRH)と肝細胞腫瘍(HCA)との発現遺伝子の差異を解析した。その結果、細胞周期に関わる遺伝子群は同様の発現傾向を示したものの、HCAではDelta-Notch経路の発現が顕著であったことから、腫瘍性形質を獲得する過程でのNotchシグナルの関与の可能性が考えられた。しかし、Nrf2 欠損マウスのNRHにおける遺伝子解析が完結していないことから、Notch経路とNrf2の関与は今後の研究課題となった。部分肝切除モデルでは、部分肝切除後の肝細胞増殖活性を継時的に解析した結果、野生型マウスで細胞増殖の収束が認められた術後7日においてもNrf2欠損マウスでは高い細胞増殖活性が認められ、さらに、増殖シグナルの一つであるリン酸化STAT3はNrf2 欠損マウスで高発現していた。このことから、Nrf2はSTAT3のリン酸化を介し増殖シグナルのOFF制御に寄与している可能性が考えられた。一方、肝細胞増殖シグナルのON/OFF と密接な関連が示唆されているNotch 等の分化誘導シグナルに関しては今後の研究課題となった。今後、Nrf2 欠損マウスの肝再生モデルにおけるNotchシグナル経路の解析を展開することで、肝細胞増殖シグナルのON/OFF制御に寄与するNrf2/Notchシグナル経路の役割が明らかになることが期待できる。
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