研究課題/領域番号 |
15K07736
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研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
富張 瑞樹 帯広畜産大学, 畜産学部, 准教授 (00552754)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 肥満細胞腫 / 腫瘍 / 犬 / 遺伝性疾患 / 腫瘍関連抗原 |
研究実績の概要 |
犬の肥満細胞腫は皮膚に発生する悪性腫瘍の中で最も一般的に認められ、とくに高グレードのものでは明瞭な予後因子の特定が難しいこと、さらには治療への反応性も乏しい難治性疾患として広く知られている。 これに対し我々は、同腫瘍の家族性発症が疑われる症候群に遭遇し、DNAマイクロアレイ解析により発現に異常を認める新たな9種の候補遺伝子を得た。一方、Giantinら(2014)は自然発症した犬の肥満細胞腫51症例に対し同様のアレイ解析を行い、前述の9種とは全く異なる13種の候補遺伝子を報告し、このうち4種においては発現量と生存率に明確な相関が認められたことを報告している。しかしながらこれらの候補遺伝子が、実際の家族性発症の原因となる因子であったかどうか、あるいは腫瘍組織中でどのような役割を果たしているのか、などについては全く明らかとされていない。 そこで我々は、上述21種の候補遺伝子について、犬の肥満細胞腫腫瘍組織における発現動態をより詳細に解析するために、まずmRNAレベルの定量を行った。平成27年度では、これらすべての候補遺伝子に対するプライマーを設計し、mRNA定量を行うためのリアルタイムPCR測定系を確立するに至った。またこれと並行して、帯広畜産大学動物医療センターに来院された自然発症の肥満細胞腫症例犬4例において、初回外科的切除時、再発時、剖検時などの病期ステージに応じて経時的な腫瘍組織の採材を行った。 平成28年度以降は、これらの自然発症症例の腫瘍組織におけるmRNAレベル、さらにはタンパク質レベルでの発現動態の解析を進めることで、犬の肥満細胞腫の癌化や、病態維持における新たな分子病態を明らかにできるとともに、分子標的薬とはまた異なった観点からの新しい診断・治療法の提案に繋がっていくものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①候補遺伝子の選定:まず、我々が同定した候補遺伝子9種(PRKCE、PPP2R1A、CD3E、ERCC1、DOK2、GIMAP4、SYK、C6、SLCIA3)と、Giantinらが報告した候補遺伝子のうち、とくに予後と相関があったとされている4種(FOXM1、GSN、FEN1、KPNA2)の、計13種を候補遺伝子として設定した。さらに内部標準として3種(GAPDH、TATA box binding protein(TBP)、Ribosomal Protien L32)の遺伝子を設定し、これら計16種の遺伝子について、Roscheのアッセイデザインセンターを利用して適切なプライマーペアを設計し、すべてがsingle bandであることを確認したうえで、RoscheのUniversal Probeを用いたリアルタイムPCR測定系を確立した。 ②犬肥満細胞腫の自然発症症例の腫瘍組織の採材:帯広畜産大学動物医療センターに来院された自然発症の肥満細胞腫症例4例に対し、初回外科的切除時、再発時、転移した組織、あるいは剖検時などの、病期ステージ分類に対応した可能な範囲での経時的な採材を行った。また、外科的切除により採材した腫瘍組織と同時に、Tru-cut生検による組織量においても、十分な量のcDNAが得られることを確認した。 ③採材した腫瘍組織中の候補遺伝子mRNA発現量の解析:採材した腫瘍組織はすべてRNAlater内に浸漬した後、-80℃にて冷凍保存した。一部については解析を行っており、これらの解析と臨床データとの照らし合わせも行っている。またこの発現量の解析は、次年度以降も継続してく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
①犬肥満細胞腫の自然発症症例の腫瘍組織の採材の継続:平成27年度にmRNAレベルでの発現量測定系を確立することができたことを受け、平成28年度以降は、自然発症例の腫瘍組織採材の症例数の増加を一番の目的とする。帯広畜産大学動物医療センターに来院された肥満細胞腫症例犬からの腫瘍組織の採材を継続するとともに、近隣の十勝獣医師会、ならびに研究協力行っている北海道大学、酪農学園大学、東京大学などの関係研究者にも採材を依頼し、各動物病院に来院された症例についても同様の採材を行う。病期ステージに対応した採材をもう一つの目的としているため、臨床データの収集とともに研究の目的についても今一度周知を徹底する。総合的な解析を加えた後、有用性の高い候補遺伝子をさらに絞り込む。また、FNAにより得られたサンプル量で、どこまでこれらの解析が可能であるかについても併せて検討する。 ②家族性発症を認めた症例群、ならびに自然発症犬(とくに短頭種)におけるDNA遺伝子配列解析:①で候補遺伝子についてある程度絞り込めたら、まず保存してある家族性発症を認めた症例群の腫瘍組織由来cDNA(4頭)に対し、ダイレクトシーケンス法にてそれぞれの候補遺伝子のcDNA遺伝子配列を解析する。この解析において、なんらかの変異(アミノ酸配列に影響する、ストップコドン挿入など)が認められた場合には、その変異の様式について慎重に検討した上で、組織もしくは全血由来のgenomic DNA 上における遺伝子配列の解析を試みる。さらに続いて、①において発現に異常を認めた症例(とくに短頭種症例)に対しても、同様のcDNA、genomic DNAの遺伝子配列の解析を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度においては、mRNA定量のためのリアルタイムPCR測定系の確立を第一の目的とした。Roscheのアッセイデザインセンターを利用してプライマー設計を主に行ったが、当初予定していたよりも少ない回数で、それぞれのプライマーペアを設計することが可能であった。このため、使用分として取り置きしておいた予算のうち、小額ではあったが、次年度用に繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、リアルタイムPCR測定系が確立されたことを元に、症例数を大幅に増数して解析を加えて行く予定としている。さらに、臨床データ、免疫学的プロフィールなどについても検討を加える予定としており、繰り越した予算も含めて精力的な解析を行っていく予定である。
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