ストレスはバイオロジカルリズムを破綻させ、免疫力や運動能力に影響を及ぼし、疾患リスクを増大させる。しかし、ストレスを客観的に評価する方法は確立されておらず、ストレス、体内時計、健康・疾患との関係は科学的に解明されていない。本研究では、マウスにおいてストレス性リズム障害を再現し、その分子メカニズムを解析するとともに、簡便かつ低侵襲な唾液中のバイオマーカーの変動を解析する。また、そこから見出されたバイオマーカーを他の動物種に適応できるか否かの検討を行う。ストレス-体内時計-疾患の相互関係を明らかとし、動物種の垣根を越えて使用できるバイオマーカーの確立を目指す。 本年度は、ニホンザルおよびアカゲザルに対して心理的・社会的要因を含むストレス(サルをホームケージから他室の個別ケージに一時的に移動させるストレス)を負荷した際の唾液中バイオマーカーの変動について検討した。ストレス負荷の2日前と当日の同時刻に採取した血液と唾液中において、コルチゾール、アミラーゼ、免疫グロブリンA(IgA)、メラトニン、脳由来神経成長因子(BDNF)の測定を試み、コルチゾール、アミラーゼ、IgAの濃度の測定に成功した。このうちコルチゾールは、血漿中より唾液中においてより鋭敏にストレス反応を捉え得ることが示唆された。またストレス負荷による唾液中コルチゾール濃度の上昇に並行して、アミラーゼとIgAの濃度が減少することが明らかとなった。コルチゾール、アミラーゼ、IgAの変動は、アカゲザルにおいてのみ有意差が検出されており、唾液中バイオマーカーの観点からニホンザルとアカゲザルのストレス反応性の違いが示唆される結果となった。同時間帯にマウスに拘束ストレスを負荷した際にも唾液中のコルチゾール、アミラーゼ、IgAは同様の変動をみせており、これらは種差を越えて使用し得る唾液中ストレスバイオマーカーになり得るかも知れない。
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