研究課題/領域番号 |
15K07750
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研究機関 | 酪農学園大学 |
研究代表者 |
及川 伸 酪農学園大学, 獣医学群, 教授 (40295895)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 乳牛 / 潜在性ケトーシス / β-ヒドロキシ酪酸 / 予防 |
研究実績の概要 |
本年度は、「潜在性2型ケトーシス牛(SCK)の早期診断に基づく有効的な対策の実証」を実施した。本試験は一般農場に協力を得て行うことから、最初に現場で実際に実行しうる対策を試験協力者と協議した上で進められた。最初に対象農場として道央の農場(経産牛約200頭飼養)が設定された(なお、もう一農場も設定され現在実施検討中)。 試験概要は以下のとおりである。すなわち、105頭の分娩牛のうち、分娩後2日目までに疾病を発症した30頭および初産21頭を除く54頭を対象牛として、分娩後3日目にβ-ヒドロキシ酪酸(BHBA)濃度を測定し1.0mM以上を示した牛をSCKと診断した(26頭)。SCK牛はプロピレングリコール群(PG、16頭、250ml/回)と消化機能障害治療剤群(GDT、10頭、90g/回)に分けられた。薬剤はそれぞれ5日間(1回/日)投与された。8日目にもBHBA濃度が測定され、SCKであった牛には引き続き同薬剤が継続投与された。最終的に分娩3から10日目まで連続で投与された13頭(PG群:7頭、GDT群:6頭)および臨床的に健康だった対照牛(10頭)が比較検討された。両投与群のBHBA濃度は、3日目、8日目、13日目において対照群より有意に高値を示した。非エステル型脂肪酸濃度は8日目までは両投与群の方が高かったが、13日目には対照群と同程度の値へと低下した。100日搾乳量、305日予想乳量、4%脂肪補正乳量を比較したところ、GDT群は対照群やPG群よりも高値を示した。初回授精日数は3群間に有意差はなかった。 以上から、GDTはSCKの改善においてPGと遜色のない効果を持ち、乳生産でより効果的であることが示唆された。なお、血液性状の結果から分娩後診断に基づくSCK対策では早期に充分な病態改善には至らなかったので、今後は視点を変えて分娩前からの実践的な予防対策について検討することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、計画どおり実際の一般農場において、「潜在性2型ケトーシス牛(SCK)の早期診断に基づく有効的な対策」に係る試験が実施された。分娩後に血液検査を行いSCKと診断された牛に対して、プロピレングリコール(PG群)と消化機能障害治療剤(GDT群)を投与し対照群と比較検討され、一定の対策効果が示された。なお、乳生産に関してはGDT群がより有効的であることも示された。しかしながら、血液性状の比較から分娩後の対策では対策としては遅いかもしれないという知見も得られ、分娩前からの予防対策の重要性が示唆された。もう一農場に関しては現場の実験体制不備から再選定したことで設定は遅れたが、このような先発の試験結果が得られたことで、今後、SCK対策に対して新しい視点から取り組むことができ、フィールドを用いた研究の展開としてはまずまずの進展と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
1.潜在性2型ケトーシス牛(SCK)の実践的早期対策の実証 上述のとおり、SCKの分娩後対策の成果を受けて、今後は分娩前における予防対策の有用性を検討することを計画している。現在、すでに道東の農場で継続実施中である。他の一般農場でも検討予定。 2.臨床獣医師の潜在性2型ケトーシス予防に対する取り組みに関するアンケート調査 H28年度からは、もう一つの課題である予防に関するアンケート調査に着手する計画である。実施に当たってはアンケート内容について研究協力者と検討する。また、大動物関連の研究会等の協力を得て広くアンケートを実施したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の本試験は実際の現場を想定し2農場で実施する予定であったが、当初予定されていた道東の一般農場が実験管理体制の不備から変更になった。その後、年度の後半に再度新たな農場が選定された。実験は計画され、今後展開予定のため予算の執行が今年度にはならなった。そのために残金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度も今年度に引き続き「潜在性2型ケトーシス牛(SCK)の実践的早期対策の実証」を検討するとともに、上述のとおり「予防に関するアンケート調査」を計画していることから、以下の項目に関して研究費を使用する計画でする。すなわち、項目として、血液検査関係(検査料、検査資材等)、出張旅費関係(現地打合せ、サンプリング、研究情報収集等)、データ分析関係(ソフト等)、データ検討関係(海外出張、国内検討会等)およびその他(論文作成等)である。
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