研究課題/領域番号 |
15K07751
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研究機関 | 酪農学園大学 |
研究代表者 |
堀 泰智 酪農学園大学, 獣医学群, 准教授 (20406896)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 心不全 / 心臓線維化 / 交感神経受容体 / β3受容体 / 心臓線維芽細胞 |
研究実績の概要 |
交感神経受容体(AR)にはαとβのサブタイプがあり、β-ARには3つのサブタイプ(β1, β2, β3-AR)が存在している。β-ARの慢性的な刺激は心肥大や心筋線維化を誘起することから、β-ARは心不全の進展に深く関わっている。この内、β3-ARは脂肪細胞や平滑筋に多く発現しているため、当初は肥満や糖尿病の治療薬として注目されていたが、近年では心血管系におけるβ3-ARの局在が明らかとなり、生理学的機能や心不全の病態との関連性が注目されている。しかし、①心臓線維芽細胞におけるβ3-ARの局在は知られておらず、②β3-ARを介したコラーゲン産生の調節機序は未だ解明されていない。従って、心筋線維化のメカニズムは十分に解明されておらず、③心不全におけるβ3-ARの病態生理学的意義は未知のままである。本研究では、β3-ARを介した心筋線維化のメカニズムを解明し、新たな心不全治療薬の開発に向けた基礎的情報を発信することを目的としている。 初年度には、ラットの心臓ならびに心臓線維芽細胞におけるβ3-ARの発現解析を行い、ラットの左心室におけるβ3-ARのmRNA・蛋白発現は極めて少なく、心臓線維芽細胞では顕著に発現していることを明らかにした。平成28-29年度にはβ3-AR 作動薬(BRL37344)を使用し、β3-ARを介した細胞内シグナルの伝達経路を探索すると共に、コラーゲン産生に対する影響を解析した。本剤に暴露した心臓線維芽細胞では濃度依存性にp44/42 MAPK (ERK1/2)のリン酸化が増加しており、10-4Mでは最も強いシグナルが確認された。また、継時的変化の解析では、本剤添加後10分でリン酸化ERK1/2の最も強いシグナルが認められた。これらの結果から、心臓線維芽細胞におけるβ3-AR刺激は同受容体を介して細胞内シグナルを調節していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究ではin vitro研究およびin vivo研究から、①心臓線維芽細胞におけるβ3-ARの遺伝子・蛋白質の発現解析、②β3-ARを介したコラーゲン産生の調節メカニズム解析、③心不全モデルラットにおけるβ3-ARを介した心筋線維化ならびに心機能の調節機序の解析を行い、β3-ARを介した心筋線維化のメカニズムを明らかにすることで、心不全治療の発展に向けた新たな基礎的情報の解明を目標としている。 我々は平成28度までにラット心臓線維芽細胞においてβ3-ARが発現している事を明らかにしている。また、β3-AR作動薬(BRL37344)を用いて心臓線維芽細胞のβ3-ARを刺激することで濃度依存性(10-6~10-4M)にp44/42 MAPK のリン酸化が増加し、10-4Mでは最も強いシグナルが確認された。また、継時的変化(10-4M; 0、10、30、60、120 min)を解析したところ、本剤添加後10分ではリン酸化ERK1/2の最も強いシグナルが認められた。しかし、コラーゲンの発現量には有意な変化は認められなかった。本年度においても、引き続きコラーゲンの発現量の解析に努めてきたが、やはり有意な変化を認めることが出来なかった。このことは、細胞内でコラーゲンが産生されるまでには約24時間が必要であり、本研究のプロトコールではコラーゲンの発現変化を捉えることが出来なかったと推察される。 当初予想していた研究成果(ウェスタンブロットを用いたI型コラーゲンの検出)が得られず研究計画の見直しが必要となったことから、当初計画にあった平成29年度の目標は遅れていると判断し、研究の延長申請を行った。今後は、心臓線維芽細胞におけるβ3-ARとコラーゲン産生に関わる直接的関連性を解析すると共に、心臓線維化に関わる様々な細胞機能の解明が必要であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27~29年度に実施した研究結果では、心臓線維芽細胞においてβ3-ARのmRNA・蛋白質発現を確認し、β3-AR作動薬によって細胞内シグナルが変化することを明らかとした。これらのことは心臓線維芽細胞におけるβ3-ARの生物学的機能を解明するための基礎的情報であり、本研究を遂行する上でも重要な意味を持っていると考える。最終年度となる本年度には、β3-ARを介した心筋線維化の調節機序を解明するために、ウェスタンブロット法を用いてさらに詳細な細胞内シグナルの変動を明らかにするとともに、細胞増殖、分化、アポトーシス、肥大などに関する蛋白の機能解析を行い、β3-ARの生物学的機能ならびに心臓線維化との関係を解明する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究に必要な機器の購入は平成29年度までに終了しており、平成30年度には心臓線維芽細胞におけるβ3-ARを同定するためのPCRプライマーやウェスタンブロットで使用する1次抗体を始め、消耗品を多く支出している。
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