研究実績の概要 |
交感神経受容体(AR)にはαとβのサブタイプがあり、β-ARには3つのサブタイプ(β1, β2, β3)が存在している。この内、β3-ARは脂肪細胞や平滑筋に多く発現しているが、心血管系におけるβ3-ARの局在が明らかとなり心不全の病態との関連性が注目されている。しかし、①心臓線維芽細胞におけるβ3-ARの局在は知られておらず、②β3-ARを介したコラーゲン産生の調節機序は未だ解明されていない。従って、心筋線維化のメカニズムは十分に解明されておらず、③心不全におけるβ3-ARの病態生理学的意義は未知のままである。本研究では、β3-ARを介した心筋線維化のメカニズムを解明し、新たな心不全治療薬の開発に向けた基礎的情報を発信することを目的としている。 初年度以降には、ラット左心室におけるβ3-ARの発現量は極めて少ないが、心臓線維芽細胞にはβ3-ARが発現していることを確認した。さらに、β3-AR 作動薬(BRL37344)に暴露した心臓線維芽細胞では濃度依存性にp44/42 MAPK (pERK1/2)の発現量が増加し、本剤添加10分後にpERK1/2の最も強いシグナルが認められた。これらの結果はβ3-ARを介した細胞シグナルはERK1/2を介していることを示唆している。 最終度にはさらなるシグナル伝達経路を解明するため、pCREBの発現量を精査した。BRL37344はpCREBの発現量を有意に増加させたが、β3-AR阻害薬(SR59230A) はpERK1/2ならびにpCREBを有意に抑制した。pCREBはpERK1/2の下流に存在するため、β3-ARを介した細胞シグナルはERK1/2ならびにCREBを介していることが示唆された。今後は、心臓線維芽細胞におけるβ3-ARとリモデリングに関する機能解析を行い、β3-ARの心臓線維化との関係を解明する必要がある。
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