研究課題/領域番号 |
15K07752
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
枝村 一弥 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (80366624)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 脊髄再生 / 線維芽細胞増殖因子 / 犬 / 骨髄間質細胞 / ニューロン分化 |
研究実績の概要 |
本年度は、最初に犬骨髄間質細胞における塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を介したニューロン分化機構の解明を行った。犬骨髄間質細胞をbFGF含有ニューロン分化培地で培養後に、ニューロン、神経幹細胞、グリアに関するmRNA発現を解析した。さらに、ニューロンに関するタンパク質の発現をWestern blotting法と免疫染色で確認し、Ca2+イメージングにて細胞機能の検討を行った。犬骨髄間質細胞をbFGFで処理したところ、ニューロン様の形態へと変化し、ニューロンに関するmRNAとタンパク質の発現が増加していた。さらに、ニューロン様の細胞は、脱分極およびL-glutamate刺激に反応する機能を有することが明らかになった。次いで、bFGFによるニューロン分化機構について検討したところ、犬の骨髄間質細胞にはFGFR1とFGFR2が発現しており、bFGFはFGFR-2と強く結合することが示された。FGFR、PI3K、Akt、MEK、PLCの各阻害剤を用いて、ニューロン分化における細胞内シグナリングを検討したところ、FGFR-2/PI3K/Akt/GSK-3β経路が関与することが明らかとなった。 本年度は、犬でのbFGF療法の確立を目指し犬組み換え塩基性線維芽細胞増殖因子(rc-bFGF)の精製も試みた。本検討では、無細胞蛋白発現系タンパク質合成キットを用いてrc-bFGFを精製した。目的遺伝子がベクターに挿入されていることをシークエンス解析により確認したところ、目的の位置に犬bFGFの遺伝子が挿入されていることが確認できた。精製過程のmRNAを用いてRT-PCRを行ったところ、目的の位置に犬bFGFのmRNAの発現が認められた。HEK293細胞とpErkを用いた機能解析を行ったところ、今回精製したrcbFGFは機能を有していることが確認できた。このように、本検討では機能を有する高純度のrc-bFGFの精製に成功した。 現在は、次年度以降に予定していた脊髄トラクトグラフィーを用いた再生脊髄評価法の確立を目指した基礎検討も既に開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
犬骨髄間質細胞における塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を介したニューロン分化機構の解明は、一部進行していた状況であったため、円滑に研究成果を出すことができた。さらに、無細胞蛋白発現系のタンパク質合成キットを用いた犬組み換え塩基性線維芽細胞増殖因子(rc-bFGF)の精製もスムーズに進行したため、次年度以降に予定していた研究の一部を前倒しで行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
1) 犬組み換えbFGFによる犬骨髄間質細胞のニューロン分化への影響 本研究では、無細胞タンパク質合成技術を利用して犬組み換えbFGFを作製する。まずは、犬bFGFの鋳型DNAをPCRにて作製する。次いで、昨年度に実績のあるコムギ胚芽無細胞蛋白質合成キットを利用してrcbFGFを精製する。本検討で得られたrcbFGFをWestern blotting法にて確認する。さらに、rcbFGF処理によって犬骨髄間質細胞が機能を有するニューロンへと分化するか否かを検討する。rcbFGF(100 ng/mL)と2% B27 supplement を含むNeurobasal-A medium用いて、犬骨髄間質細胞をニューロンへと分化誘導する。ニューロン分化誘導後に、real-time RT-PCR、Western blotting、免疫染色を用いニューロンマーカーの発現を解析する。さらに、Ca2+イメージングにて電気生理学的活性を確認する。 2) 損傷脊髄の組織培養モデルを用いたbFGFの脊髄再生効果の検証 正常犬の脊髄に圧挫を加えてから摘出し、それらの脊髄を300~500μmに薄切する。次いで、薄切した脊髄をコラーゲンシート培養皿に静置し組織培養する。この時に、従来の培養液へrcbFGFのみを添加し培養する群(bFGF群)とGFPでマーキングした犬骨髄間質細胞を共培養する群(BMSC群)の2群を設定し、損傷脊髄における再生能を検討する。経時的に倒立顕微鏡にて形態の変化を観察する。また、同時期に培養脊髄からmRNAおよび蛋白を抽出し、ニューロン(NF-LおよびNSE)やグリア(GFAP)マーカーの発現の増減をRT-PCRとWestern blotting法にて確認する。また、培養14日後に各群の培養脊髄の病理組織学的な検討を行う。その際には、ニューロンマーカー(NF-LおよびNSE)またはグリアマーカー(GFAP)に対する抗体を用いて共染色してから共焦点レーザー顕微鏡にて観察を行い、いずれの系統の神経が再生しているかを評価する。
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