研究実績の概要 |
平成29年度はTimeSLIP法により脊髄空洞症犬の脳脊髄液循環動態を調査した。空洞症の原因としてはChiari奇形、クモ膜炎、腫瘍、外傷、特発性などが挙げられる。犬ではCiari奇形によるものが最も多く報告されているが、水頭症、頭頸接合部異常、腫瘍に併発する脊髄空洞症が報告されている。また脊髄空洞症の発生機序は様々であり、主な説としてGardner, Williamが提唱した中心管の拡大とBall、Dayan、Aboulkerが提唱する血管周囲からの流入がある。その他脈拍の圧波の影響(Oldfield)、脳脊髄液の流れの速さ(Greitz)による影響が提唱されている。よって原因により発生機序は変化する可能性はあると考えられる。犬においても原因による発生機序の違いがある事は予想されるが不明である。そこで、2017年4月から2018年3月に日本大学動物病院に来院し、Time-SLIP法を行った脊髄空洞症症例4例について、頭頸部の脳脊髄液循環動態を検討した。検討項目として頭頸接合部の腹側と背側部の流れと空洞への流入を調査した。症例は、脳室拡大2例、後頭骨奇形症候群(COMS)1例、環軸椎不安定症1例であった。脳室拡大の1症例とCOMS症例において空洞は頭頸部に隣接していたが、他の2例は離れていた。結果は、腹側の流れが確認できたのは脳室拡大の2例で有り、背側の流れが確認できたのは脳室拡大の1例のみであった。空洞への流入が見られたのはCOMS症例であった。また腹側背側に流れが認められた脳室拡大症例に脳室腹腔シャント術を施行したところ空洞が消失した。これらの結果から、COMSにおいて空洞が発生する機序として中心管への流入が要因の一つであると考えられた。環椎軸椎不安定症やCOMSなど頭頸接合部異常の症例は、その周辺の脳脊髄液の循環が悪いことが分かった。脳室拡大症例では、シャント術によって空洞が消失したため、空洞の発生は脳圧に関与していることが予想された。
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