研究課題
獣医療領域において、イヌやネコ等の伴侶動物と永く幸福に添い遂げるためには転移や再発を伴う難治性固形がんの克服が喫緊の課題である。申請者は日本発の新規がん治療遺伝子候補REIC/Dkk-3の獣医療への導入を模索してきた。その過程で、イヌでの予後が非常に悪い前立腺がん細胞においてREIC/Dkk-3が予後決定因子であるアンドロゲン受容体(AR)の成熟機構に密接に関与している可能性を発見した。イヌ前立腺がんでは多くがAR発現低下によるホルモン療法抵抗性であるため、本研究ではREIC/Dkk-3とその相互作用分子が形成する複合体の動態を解析し、イヌの前立腺がんにおけるAR成熟メカニズム制御機構を明らかにすることを目的とした。研究年度1年目の平成27年度においては本申請課題の研究成果としてイヌREIC/Dkk-3相互作用分子候補としてSmall Glutamine-rich Tetratricopeptide repeat-containing protein α (SGTA)イヌホモログをクローニングし、細胞への強制発現がARシグナル伝達を阻害することを明らかとした。この研究成果をKato et al., 2015. The Veteromary Journal 206: 143-148に発表した。さらに、研究分担者の呰上と協力し、イヌ前立腺がん細胞株樹立に取り組んだ。その結果、ホルモン療法抵抗性イヌ前立腺がん細胞株CHP-1の樹立に成功し、性状確認およびARシグナル伝達機構解析を行い、Azakami et al., 2016. Veterinary Comparative Oncology. Epub ahead of printに詳細を発表した。
1: 当初の計画以上に進展している
当該年度においては、イヌ前立腺がんホルモン療法抵抗性獲得メカニズム解明の一助として、本申請課題の研究成果であるKato et al., 2015. The Veteromary Journal 206: 143-148 (Molecular cloning of canine co-chaperone small glutamine-rich tetratricopeptide repeat-containing protein α (SGTA) and investigation of its ability to suppress androgen receptor signalling in androgen-independent prostate cancer. ※研究代表者落合が責任著者)を発表した。この論文では、ホルモン療法抵抗性前立腺がんの割合が非常に多いイヌで、前立腺がん症例より分離された病理組織におけるSGTA過剰発現を確認し、今回新たにクローニングしたイヌSGTAホモログの過剰発現が培養細胞においてARシグナル伝達を阻害することを証明した。これにより、イヌ前立腺がん悪性化の一因子としてのSGTAの位置づけを確認した。さらに、本申請課題の目標の一つであった。イヌ前立腺がん細胞株の樹立を行い、ホルモン療法抵抗性症例よりARシグナル伝達非応答性のCHP-1株の樹立をおこなった。さらに性状解析を行い、ARシグナル伝達機構の破綻について証明した。その結果をAzakami et al., 2016. Veterinary Comparative Oncology. Epub ahead of print (The canine prostate cancer cell line CHP-1 shows over-expression of the co-chaperone small glutamine-rich tetratricopeptide repeat-containing protein α.)として発表した。以上の研究成果より、初年度にして当初目標のかなりの部分の遂行に成功したと考えられるため、達成度は非常に高いと考えられる。
本研究の目的である新規がん抑制遺伝子REIC/Dkk-3イヌホモログによる難治性前立腺がん治療新戦略の創出を行うため、平成27年度はREIC/Dkk-3相互作用分子SGTAイヌホモログのクローニングおよび機能解析を行った。さらに、平成27年度中に樹立、性状解析したイヌホルモン療法抵抗性前立腺がん細胞株CHP-1について、REIC/Dkk-3の発現低下とSGTAの過剰発現を確認した。今後はイヌREIC/Dkk-3とSGTAの相互作用について検証し、SGTA過剰発現イヌ前立腺がんにおいてREIC/Dkk-3強制発現がおよぼす影響について精査したい。ヒトにおいてはホルモン療法抵抗性前立腺がんへのREIC/Dkk-3遺伝子搭載アデノウイルス投与が、アンドロゲン類縁体治療薬の適応指標となるProstate Specific Antigen (PSA) の発現復帰とホルモン感受性復帰を促す可能性が示唆されており、イヌ前立腺がんに対するREIC/Dkk-3投与がこれまでにない結果を生み出す可能性が期待される。本申請課題においては、去勢個体での前立腺がん悪性化のメカニズムを明らかとし、さらにREIC/Dkk-3投与がイヌ前立腺がんにおよぼす影響についても細胞レベル、個体レベルで詳細に検討していく予定である。具体的にはSGTAがAR複合体分子成熟を阻害する起点であるホモダイマー形成にREIC/Dkk-3強制発現が与える影響を細胞生物学的手法や生化学的手法を用いて検証する。さらに、SGTAホモダイマー阻害因子をデザインし、その効果についても検討したい。
研究分担者呰上使用分の平成27年度分配分額に残額が生じたが、これは平成28年度分担額が前年度の20万円から10万円に減額されるため、円滑に研究祖遂行するために残額を生じさせたものである。
平成28年度も引き続き、イヌ前立腺がん株化細胞CHP-1の性状解析および治療実験を遂行する予定である。そのため、細胞培養機器、試薬等の消耗品支出が予想されるため、円滑に予算執行されていくものと思われる。
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Veterinary and Compapative Oncology
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1111/vco.12199
The Vwterinary Journal
巻: 206 ページ: 145-148
10.1016/j.tvjl.2015.08.002