研究課題
獣医療領域において、イヌやネコ等の伴侶動物と永く幸福に添い遂げるためには転移や再発を伴う難治性固形がんの克服が喫緊の課題である。申請者は日本発の新規がん治療遺伝子候補REIC/Dkk-3の獣医療への導入を模索してきた。その過程で、イヌでの予後が非常に悪い前立腺がん細胞においてREIC/Dkk-3が予後決定因子であるアンドロゲン受容体(AR)の成熟機構に密接に関与している可能性を発見した。イヌ前立腺がんでは多くがAR発現低下によるホルモン療法抵抗性であるため、本研究ではREIC/Dkk-3とその相互作用分子が形成する複合体の動態を解析し、イヌの前立腺がんにおけるAR成熟メカニズム制御機構を明らかにすることを目的とした。研究年度2年目の平成28年度においては本申請課題の研究成果としてイヌ前立腺がん由来株化細胞を樹立し、その性状について解析を行った。また、REIC/Dkk-3とコシャペロンタンパク質であるSGTAとの相互作用がARシグナリングにおよぼす影響について精査し、Ochiai et al., Oncotarget, 4(3):3283-3296.に発表した。この知見はヒトの難治性前立腺がんに病態が近似するイヌの前立腺がんの発症及び進展メカニズムに共通点があることが予測されるため、イヌにおいてもREIC/Dkk-3とSGTA分子の相互作用について引き続き検討中である。さらに、イヌと並んで飼育頭数が多いネコのREIC/Dkk-3ホモログについてもその抗腫瘍作用について検証しOchiai et al., Veterinary and Comparative Oncology, Epub ahead of printに発表した。
1: 当初の計画以上に進展している
当該年度においては、イヌ前立腺がんホルモン療法抵抗性獲得メカニズム解明の一助として、本申請課題の研究成果であるOchiai et al., 2016. Oncotarget, 4(3):3283-3296. (Tumor suppressor REIC/DKK-3 and co-chaperone SGTA: Their interaction and roles in the androgen sensitivity)を発表した。この論文では、REIC/Dkk-3がSGTA過剰発現により阻害されているAR分子複合体成熟を促進し、ARシグナル伝達機構を復帰させ、さらにヒトでホルモン療法感受性の指標となるProstate Specific Antigen (PSA)のmRNA発現を誘導したことから、REIC/Dkk-3がホルモン療法抵抗性前立腺がんの病態改善に効果がある可能性を示した。これにより、イヌ前立腺がん悪性化の一因子として考えられているSGTAとREIC/Dkk-3の相互作用機構解析の意義を確認し、更なるイヌでの研究展開が可能となった。さらに、REIC/Dkk-3の汎用的な抗腫瘍効果を証明するためにネコにおけるREIC/Dkk-3の機能的位置づけを確認する研究を行い、抗腫瘍作用について、Ochiai et al., 2016. Veterinary Comparative Oncology. Epub ahead of print (Properties of the feline tumour suppressor reduced expression in immortalized cells; REIC/Dkk-3)として発表した。以上の研究成果より、2年目にして当初目標のかなりの部分の遂行に成功したと考えられるため、達成度は非常に高いと考えられる。
本研究の目的である新規がん抑制遺伝子REIC/Dkk-3イヌホモログによる難治性前立腺がん治療新戦略の創出を行うため、平成28年度はREIC/Dkk-3相互作用分子SGTAイヌホモログのクローニングおよび機能解析に加え、具体的なfunctional assayとして、AR signaling assayを実験系に導入して解析を行った。さらに、平成27~28年度中に樹立、性状解析したイヌホルモン療法抵抗性前立腺がん細胞株CHP-1について、REIC/Dkk-3の発現低下とSGTAの過剰発現を確認した。今後はイヌREIC/Dkk-3とSGTAの相互作用について検証し、SGTA過剰発現イヌ前立腺がんにおいてREIC/Dkk-3強制発現がおよぼす影響について精査したい。ヒトにおいて証明されたREIC/Dkk-3とSGTAの相互作用について、前立腺がん病態が近似するイヌにおいても同様の現象が観察されるかについて精査する。本申請課題においては、去勢個体での前立腺がん悪性化のメカニズムを明らかとし、さらにREIC/Dkk-3投与がイヌ前立腺がんにおよぼす影響についても細胞レベル、個体レベルでさらに詳細に検討していく予定である。具体的にはSGTAがAR複合体分子成熟を阻害する起点であるホモダイマー形成にREIC/Dkk-3強制発現が与える影響を細胞生物学的手法や生化学的手法を用いて検証する。さらに、SGTAホモダイマー阻害因子をデザインし、その効果についても検討したい。
研究分担者呰上使用分の平成27年度分配分額に残額が生じたが、これは平成28および29年度分担額が前年度の20万円から10万円に減額されるため、円滑に研究祖遂行するために残額を生じさせたものである。
平成29年度も引き続き、イヌ前立腺がん株化細胞CHP-1の性状解析および治療実験を遂行する予定である。そのため、細胞培養機器、試薬等の消耗品支出が予想されるため、円滑に予算執行されていくものと思われる。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件)
Oncotarget
巻: 7 ページ: 3283-96
10.18632/oncotarget.6488.
Veterinary and Comparative Oncology
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1111/vco.12254