研究課題/領域番号 |
15K07755
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研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
石岡 克己 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 准教授 (60409258)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 肥満 / 犬 / マイオカイン / イリシン |
研究実績の概要 |
イリシンは骨格筋から分泌される生理活性物質マイオカインの1つであり、膜貫通タンパク質(FNDC5)の一部が切り出され、血中に放出されたものである。運動刺激でFNDC5が増加すれば、白色脂肪細胞が褐色脂肪細胞(またはベージュ細胞)に変わり、UCP-1の発現が促進される。UCP-1はエネルギーの消費を増加させグルコース代謝を促進するため、体重減少効果や糖尿病治療への応用が期待されている。しかしイヌにおいてマイオカインについての研究報告は無く、イリシンの存在も明らかにされていない。本研究ではまず、イヌ骨格筋由来のcDNAを用いて逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法でFNDC5を増幅し、解読した塩基配列をゲノムデータベース上のものと比較した。PCR産物を精製しデータベース上の配列と比較すると、FNDC5の塩基配列と一致していることが確認された。このことから、イヌにおいても骨格筋でFNDC5が発現しており、イリシンが分泌されていると推測された。得られたFNDC5塩基配列で他の動物種との相同性比較を行うと、食肉目において最大95%と相同性が高い傾向があり、系統的に近い種のFNDC5は相同性が高いことが確かめられた。 次に、肺・肝臓・胃・十二指腸・空腸・回腸・大腸・腎臓・前頭葉・海馬・視床下部・脊髄・皮膚・脂肪・骨髄から抽出されたRNAを用いてRT-PCRを行い、組織別発現分布を解析した。その結果、皮膚以外の15の組織でバンドの発現が確認された。そのため、体内の様々な場所でFNDC5が発現し、イリシンが産生されている可能性が示唆された。ただし今回使用したプライマーはFNDC5を構成する異なるvariantsの共通範囲を指定しており、他の組織では骨格筋で発現するイリシンとは別の働きを持つものが発現している可能性も考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イヌにおいてイリシンが存在し、少なくとも転写レベルで発現していることが確かめられた。イヌやネコはヒトとは代謝が異なるため、本研究はマイオカインがイヌの体内で産生されているかどうかも不明な所からの出発であった。しかし代表的なマイオカインであるイリシンが確認できたことによって、2年目以降の研究が予定通り継続できる見通しを立てることができた。また、骨格筋以外の多くの臓器でイリシンの発現が認められたことは予想外の結果であったが、これまで知られてきた以上にイリシンの生理的役割が幅広いことを示すデータととらえることもできる。いくつかのsplicing variantsの存在がゲノムデータベース上で知られているが、本研究では共通部分にプライマーを設計したため、これら全てを検出している可能性がある。各variantごとの機能の違いという方向性も今後視野に入れることが適切かも知れない。
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今後の研究の推進方策 |
今回、イヌにおいてイリシンが転写レベルで発現していることが確かめられた。しかし、イリシンが実際に血中に分泌されているか、どれくらいの濃度で存在するか、またどのような条件で変動するかについては不明のままである。次の段階として、イリシンの蛋白レベルでの存在、臨床応用を念頭に置いた血中イリシンの解析について研究を進める。市販のイリシンELISAキットの中に、イヌにも交差する抗体を用いた製品があることが確かめられている。しかし、検体の適切な希釈倍率など、実際の測定に必要な情報は製造者も持ち合わせておらず、利用できるデータが無い。そこで、さまざまな希釈倍率でイヌの血清を測定し、イヌ血中イリシン濃度の評価に適した測定条件を確立する。次に、確立した測定条件を用いて複数の健常犬における血中イリシン濃度を測定し、基準値を明らかにする。さらに、食事の影響や日内変動の有無について確かめ、以降の実験に必要な基礎データを収集する。それらを踏まえ、さまざまな強度の運動を実施させたときの血中イリシン濃度の変動について解析し、イヌにおける運動とイリシンの関係を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は遺伝子解析に重点を置いたため、最も出費が大きくなるタンパク測定関連の出費がやや抑えられた。その分を次年度以降に使用することになるため次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度以降でELISAキットを多めに購入し、予備試験等に当てる。ELISAキットは高額であり、次年度使用額の持ち越しが必要となる。
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