研究課題/領域番号 |
15K07755
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研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
石岡 克己 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 准教授 (60409258)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 肥満 / 犬 / マイオカイン / イリシン |
研究実績の概要 |
イリシンは骨格筋から分泌される生理活性物質マイオカインの一つであり、肥満・糖尿病治療への応用が期待されている。今回、市販のELISAキットのうち、Irisin (Human,Rat,Mouse)-ElISA Assay Kit (PHOENIX PHARMACEUTICALS,INC,USA)が犬の血中イリシン濃度を測定するのに有効であることが確かめられた。そこで、まず健常ビーグル犬20頭(雄10頭 雌10頭、1~9歳)を使用して、健常犬における血中イリシン濃度の基準範囲を明らかにした。その結果、平均値は615.0 ng/ml、最大値は1599.8 ng/ml、最小値は339.2 ng/ml、反復切断法により決定した基準範囲は318.4~777.6 ng/mlとなった。また、雌雄間においてP値は0.93であり有意差はみられなかった。 次に、イリシンの日内変動について確認するため、3頭のビーグル犬(雄3頭、4~8歳)を前日17:30から絶食させ、試験当日の7,10,12,14,15,16、18,20時に頸静脈より採血して血中イリシン濃度を測定した。その結果、犬の血中イリシン濃度に日内変動は見られないことが確かめられた、即ち、運動その他の影響を調べる際に、実施時間等を限定する必要は無いと考えられた。 最後に、これら3頭のビーグル犬に犬用トレッドミル(株式会社シエルジャパン、特注品)を用いて運動負荷をかけた際の反応を調べた。運動による血中グルコース濃度の急激な低下を考慮して本研究での運動開始時刻は食事を与えてから5時間半後と定め、運動強度は時速8 km/hで30分間とした。運動開始直前、直後、1、2時間後の計4ポイントで血中イリシン濃度を測定したところ、この条件で明確な変動は認められなかった。運動強度の変更、または他のマイオカインについての調査が必要と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度我々は、イヌ骨格筋由来cDNAからのクローニングによってイリシンが転写レベルでイヌに発現していることを確かめた。さらに臓器発現分布を確認し、骨格筋以外のいくつかの臓器でもイリシンが発現していることを確認した。 今年度は、市販のイリシンELISAキットのうち犬のイリシン測定にも利用できるキットが明らかとなり、それを用いて健常犬における血中イリシン濃度の基準値、日内変動の有無、運動負荷に対する反応をそれぞれ明らかにすることができた。分子レベルの解析から始めた犬のマイオカイン研究であるが、これによってin vivoでの動態を確かめるところまで進展し、臨床応用へも結びつけられる下地ができたと言える。また、これまでに確立した実験手法や得られた検体は、今後イリシン以外のマイオカインにも適応可能である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、骨格筋をはじめとするイヌの細胞でイリシンが産生されていること、特定のELISAキットを用いることで犬の血中イリシン濃度を測定することが可能であることを確かめた。イヌのイリシンの基準値と日内変動について明らかとしたが、今回の運動強度では残念ながら運動負荷時のイリシンの変動を捕らえることはできなかった。 今後の方策として、まず運動強度を高くすることで血中イリシン濃度の上昇を確認できるかもしれない。また、代表的なマイオカインの中には他にもイヌで測定できる可能性のある物があるので、それらについても検討を始めたところである。骨格筋の培養細胞を用いた実験系を立ち上げ、薬物に対する反応などin vitroでの試験も始めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はELISAを用いたタンパク濃度測定を複数回行ったが、対象としたマイオカインがイリシンのみであったため、初年度持ち越し分もあり若干の余裕が生まれた。最終年度では複数種のマイオカインの解析を行うため、ELISAキットがさらに多く必要となる。また、培養細胞を用いた試験実施にあたり、そのための試薬代金も必要となる。
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次年度使用額の使用計画 |
複数種のELISAキットを同時進行で使用するため、次年度使用額が増加する。また、これまで使用していない細胞培養関連試薬一式の購入費用補助にあてる。
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